トップページ > 診療内容 > 脳血管障害

脳血管障害

脳血管障害は、脳に血液を送る血管の障害により引き起こされる病気の総称です。血管が詰まることによって引き起こされる脳梗塞と、血管が破れることによって引き起こされる脳内出血・くも膜下出血などがあります。脳血管障害は、本邦の死因第3位、寝たきり要因第2位となっており、皆さんの健康に大きく影響する非常に危険な病気です。
我々脳血管障害班は、これら脳血管障害を発症した患者様や、脳血管障害を発症する危険性が高い患者様を担当しています。
当院では、救急医・救命救急センター(AMEC3)・救急隊などと連携し、24時間365日常に脳血管障害に対応できる救急医療体制をとっており、緊急治療の必要な患者様に対して高度な医療を提供しています。
更に、当院では2019年より脳卒中ケアユニット(SCU)が稼働しており、脳神経外科医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語療法士・栄養士などの多職種が関わって、入院中の患者様に積極的なチーム医療を行なっています。

脳血管障害班の主な対象疾患

脳梗塞

脳梗塞は、脳を栄養する血管が詰まり、詰まった先の脳細胞に血液が送られなくなることで生じます。
何らかの原因により脳血管が詰まった場合、時間が経てば経つほど、脳梗塞の範囲は広がっていきます。そのため、脳梗塞を発症した場合は、すぐに治療を開始して詰まった血管を開通させる必要があります。
我々脳血管障害班では、詰まった血管を開通させるために、血栓溶解療法や脳血管内治療(経皮的血栓回収術)などの迅速な治療を行なっています。

●血栓溶解療法:血栓を溶かす薬剤(t-PA)を点滴投与して、閉塞した血管の 血栓を溶かし、脳血流を再開通させる治療法です。発症後4時間30分以内が適応です。

血栓溶解療法

●経皮的血栓回収術:大腿部(太ももの動脈)にカテーテルを挿入して治療を行います。詰まっている血栓までカテーテルを誘導し、血栓除去デバイスを用いて回収除去し、脳血流を再開通させる治療法です。発症後8時間以内が適応ですが、症例によっては8時間以上経過していても適応となる場合があります。

経皮的血栓回収術

経皮的血栓回収術

下図の患者様は突然意識障害と左片麻痺が出現したため、当院に救急搬送されました。大きな脳血管が詰まっていたため、ステントを用いた経皮的血栓回収術を行い、再開通を得ることができました。患者様の症状は治療後速やかに改善し、約1ヶ月後に自宅退院されこれまで通りの生活を営むことが可能になりました。

ステントを用いた経皮的血栓回収術

頚動脈狭窄症

頚動脈狭窄症とは、頚動脈が動脈硬化などによって狭窄する(細くなる)病気です。狭窄が高度になり脳への血流が妨げられると、脳梗塞を起こす危険性が高くなります。
頚動脈狭窄症の治療手段としては、内科的治療と外科的治療があります。脳梗塞を発症する危険性が高い患者様に対して、外科的治療(頚動脈ステント留置術)を行なっています。

●頚動脈ステント留置術:局所麻酔下に大腿部にカテーテルを挿入して治療を行います。狭窄している部位までカテーテルを誘導し、金属性の網状の筒(ステント)(左図)を留置した後、バルーンを用いて血管を正常径まで拡げます(右図)。

頚動脈ステント留置術

高度の頚動脈狭窄部(左図:矢印→)に対して、ステントを留置します(中央図:丸○)。治療後細かった血管は改善しています(右図:矢印→)。

高度の頚動脈狭窄部

脳内出血

脳内出血は、脳を栄養する血管が破れて、脳内に血液が流出することで生じます。流出した血液は塊を作り、この固まりは周囲の脳を圧迫します。
当院では緊急で手術が必要となる患者様に対して、侵襲度の低い内視鏡手術を行なっています。

●内視鏡手術:全身麻酔で行います。頭の骨に10円玉より少し大きな穴を開け、そこから直径約1cmの筒を脳内に挿入します。筒の中に内視鏡(小さいカメラ)と吸引管を挿入して可能な限り血液を取り除きます。

当院では脳内出血に対して、侵襲度の低い内視鏡を用いた血腫除去術を行なっています。手術後、残存血腫はほとんど認めていません。

内視鏡手術

くも膜下出血

くも膜下出血は、脳を栄養する血管にできた瘤(脳動脈瘤)が破れることで生じます。一旦発症すると、最善の治療を行ったとしても約1/3の方が死亡され、約1/3の方が重度の後遺症を残すとされており、社会復帰できる患者様は残りの約1/3程度となります。くも膜下出血は発症後の時期によって3つの合併症(再破裂・脳血管攣縮・水頭症)を生じる可能性があるため、それぞれの合併症に対して処置を行う必要があります。我々は社会復帰できる患者様を可能な限り増やすべく、いずれの合併症に対しても予防及び治療を行なっています。

  1. 再破裂:一度破裂した動脈瘤は、再度破れる(再破裂する)可能性が高く、再破裂を起こした場合の転帰は非常に悪くなります。くも膜下出血を発症した場合、再破裂の予防が望まれますので、当院ではコイル塞栓術を第一選択として治療を行なっています。コイル塞栓術が困難な方では、開頭クリッピング術を行なっています。
  2. 脳血管攣縮:くも膜下出血を発症後4日から14日までの間は脳の血管が細くなる病気(=脳血管攣縮)を来す可能性があります。脳血管攣縮が高度となった場合、脳の血流が乏しくなり脳梗塞を合併する可能性があり、予防治療が重要となります。脳血管攣縮予防のために点滴や内服で治療を行います。重度の脳血管攣縮を来した場合はカテーテル治療を行い、血管を広げる処置を行います。
  3. 水頭症:くも膜下出血を発症後約1ヶ月経過して生じる可能性がある合併症です。脳脊髄液が溜まることで、認知機能障害や歩行障害、尿失禁などの症状を生じます。水頭症を起こした場合は、脳室腹腔短絡術を行います。

未破裂脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤は、くも膜下出血の原因となる疾患です。近年脳ドックや頭部の精密検査を行うことで、偶然脳動脈瘤がみつかる方が増えています。
脳動脈瘤の年間の破裂率(くも膜下出血になる確率)は約1%前後で、動脈瘤の形が不整なものや一部に突出を認めるものは破裂しやすいと考えられています。
患者様と十分にお話をした上で、治療を希望される場合には破裂予防のために脳血管内治療(コイル塞栓術やフローダイバーター留置術)や開頭クリッピング術などを行なっています。

●コイル塞栓術:多くの場合局所麻酔下に大腿部にカテーテルを挿入して治療を行います。脳動脈瘤までカテーテルを誘導し、プラチナ製のコイルを留置し、動脈瘤を閉塞します(左図)。脳動脈瘤の形状により単純にコイルを留置することが困難な場合は、バルーン(真ん中図)やステント(右図)を用いて安全に十分なコイル留置を行います。

コイル塞栓術

下の図のように術前認めた脳動脈瘤(左図:矢印→)に対して、コイルを留置しました(中央図:丸○)。治療後脳動脈瘤の描出は認めず治療を終了しています(右図:矢印→)。

脳動脈瘤

●フローダイバーター留置術:大型脳動脈瘤は従来行われていたクリッピング術やコイル塞栓術では治療困難とされていました。そのような大型脳動脈瘤に対して、フローダイバーターと呼ばれるステントが登場し、その高い根治性から注目を集めています。フローダイバーターは非常に目が細かく編み込まれたステントで、フローダイバーターを留置することで脳動脈瘤に入る血流を減少・停滞させて血栓化を促すことで脳動脈瘤破裂を予防します。当院でも本治療を導入しています。全身麻酔下に大腿部にカテーテルを挿入して治療を行います。脳動脈瘤のある正常血管にフローダイバーターを留置します。

フローダイバーター留置術

その他の手術

もやもや病(脳を栄養する血管が退縮してしまう病気)や動脈硬化性脳動脈閉塞症の患者様のうち適応がある方には脳動脈バイパス術を行います。バイパス術では頭皮や筋肉などを栄養する動脈を脳の動脈に縫い合わせることで、脳の血流を増やします。1mmほどの細い脳動脈に顕微鏡を用いて吻合します。下の画像はもやもや病(成人)の方にバイパス術を行ったものです。1mm弱の血管に吻合し良好な血流をえることができました。

もやもや病

脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻という脳出血をきたす可能性がある疾患に患われた方には脳血管内治療や開頭術、放射線治療、あるいは定期的が画像検査による経過観察などいくつかある選択肢の中から、個々の患者様に適した治療法を提案いたします。