医局案内

留学だより(医局情報)

留学だより(第2報)

大野 誠(平成15年卒)

飛翔会の先生方におかれましては益々ご健勝のことと存じます。2019年10月よりUniversity of Kentuckyに留学させていただいている平成15年卒の大野誠です。昨年に続き、留学中の最近の現状を報告させていただきます。
こちらでは生理学部門のBrian Delisle教授のラボに所属して、QT延長症候群とサーカディアンリズムの関係について研究しています。相変わらずポスドクは私一人の小さなラボですが、ビジョンは大きく持ち、現在、いくつかの環境条件変化に伴った心臓電気生理のサーカディアンリズムの変調についてマウス心電図の解析を中心に研究に取り組んでおります。
諸先輩方が最初の1年は苦労すると言われていた通り、この1年間は自分が当初思い描いていた留学生活とは全く異なるものになりました。第一に、ケガと病気です。お恥ずかしい限りですが、不注意で腕を骨折して整復手術を受ける事態になり、しばらく実験のピペットを握ることができないという情けないことになりました。また、ケンタッキー州は田舎で自然豊かなのですが、花粉が多いことでも有名で、花粉やハウスダストから鼻炎が悪化して副鼻腔炎、そして気管支炎を併発し、SpO2:90%(room air)という苦しみを経験しました。そして体力が落ちたところで、帯状疱疹にもかかり、今まであまり病気をしたことがなかったのですが、いわゆる「厄年」は国境を超えることを経験しました。そして第二に、コロナ禍です。 ご存じの通りアメリカは感染者数、死亡者数ともに世界一ですが、ここケンタッキー州も3月に非常事態宣言が出され、生活必需品の店を除いてすべて店は閉鎖され、大学の実験室も閉鎖になり、実に半年間、自宅待機を余儀なくされました。2020年10月末の時点でケンタッキー州民446万人のうちのべ10万人以上がPCR陽性となっています。最近も連日、州内1000人以上が陽性となっており、感染力の高さを感じさせます。ようやく9月からは、大学の実験室も再オープンとなりましたが、感染対策は厳重です。マスク着用義務、対人距離1.8m、実験室内で同時に実験できる人数の制限など、研究員の多いラボは大変ですが、私のラボはポスドクが私しかいませんので、のびのび実験できるのは幸いでした。こういった想定外の事柄により、当初の留学生活のイメージは大きく崩れてしまいました。特に自分が骨折して手術を受けた後、受け取った請求書の治療費を見たときには、妻と一緒に青ざめて呆然とし、留学を中止せざるを得ないかとさえ思いました。しかし今、破産せず、ケガや病気から全快し、全力で研究に打ち込めることを感謝しながら、日々生活しています。
留学生活も後半に入り、これからは順風満帆にいきたいところですが、コロナと隣り合わせの生活で緊張感を維持しなければなりませんし、目前には世紀の大統領選挙が迫っています。ケンタッキー州は共和党地盤の州ですが、共和党支持の友人からはいかにトランプ大統領が優れた大統領かを(私には選挙権はないのに)説明され、いろいろ考えさせられます。飛翔会誌が発刊される頃にはアメリカの情勢はどうなっているでしょうか。
最後になりましたが、このような貴重な留学の機会を与えてくださった矢野雅文教授を始め、ご迷惑をおかけしている不整脈班の先生方、CCUチームの先生方には心から感謝申し上げます。残されたアメリカでの生活を家族ともども元気に過ごし、帰国してまた先生方にお会いできることを楽しみにしております。

留学だより

藤村 達大(平成15年卒)

飛翔会の先生方におかれましては益々ご健勝のことと存じます。米国ニューヨーク州のコロンビア大学およびその関連施設であるCardiovascular Research Foundation (CRF)に平成30年から留学させていただき、早いもので1年半が経過しました。おかげさまで現在、公私共に充実した日々を送っております。

私のこちらでの研究テーマは、昨年に引き続き冠動脈治療後の血管内イメージング検査所見と予後との関係性を調査することです。400例以上の左冠動脈主幹部治療後の血管内超音波データを持つEXCEL trial、2000例以上の冠動脈治療後の血管内超音波データを持つADAPT-DES studyの解析を行い、第二世代DES(薬剤溶出性ステント)時代において血管内イメージング検査が治療のエンドポイントを決定しうるモダリティーに成り得るか、治療後の血管内イメージング検査の有意な所見は何かについて研究しております。第二世代DESが使用可能となり冠動脈治療の成績が向上したこと、複雑冠動脈病変の多様性、選択できる治療やデバイスが多くなっていること等により、血管内イメージング検査における冠動脈治療後の明確なエンドポイントの証明が難しくなっており、苦悩しながらデータと向き合っております。
私の留学はまだまだ道半ばではございますが、昨年は徐々に出つつある研究データを国際学会TCTで発表する機会を得、コメンテーターや学会運営業務にも携わらせていただき、貴重な経験をさせていただいております。

(TCT学会にて。左から岡村先生、私、宮崎先生、西村先生。)

私生活では、英語や米国の環境にも慣れ、昨年の夏休みに家族でワシントンD.C.を訪問しました。9歳の長男は、現地校の社会の授業でアメリカの歴史を勉強したようで、私以上に知識があることに驚かされました。また、Halloween、Thanksgiving、クリスマス、Easterなど、米国ならではのイベントに家族皆で参加できたことも大変楽しい思い出になっています。私の子供達は皆現地校に通わせておりますが、さすが移民の国だけあってクラスメイトは多国籍で、言語だけでなく異文化にも触れ、多くの刺激を受けているようです。

最後になりましたが、このような貴重な留学の機会を与えて頂いた矢野雅文教授をはじめ、サポートして下さった先生方に心より感謝申し上げたいと思います。帰国後に留学経験で得られたものを還元できるよう最後まで精進して参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

University of California San Diego(UCSD)

末冨 建(平成16年卒)

飛翔会の先生方におかれましては益々ご健勝のことと存じます。平成16年卒の末冨 建と申します。このたび矢野雅文教授のご厚意により、米国カリフォルニア州にあるUniversity of California San Diego(UCSD)のJoan Heller Brown教授のもとに平成28年4月から留学させて頂いております。 La Jollaに近いUniversity Town Center (UTC)という地区に家族4人で暮らし始めて約半年が経過しました。まだまだこれからという状況ですが、これまでのいきさつと現状につきまして簡単にご報告いたします。

留学先について・・・留学について矢野教授からお話を頂いたのが平成27年2月頃でした。大学院での研究テーマであったリアノジン受容体やカルシウムハンドリングに関係の深い分野について研究でき、できればアメリカ在住の親戚に近い所で生活ができれば心強いという2点から留学先探しを開始し、候補になったのがUCSDのJoan Heller Brown研究室でした。 そこでBrown研究室に留学されていた、厚南セントヒル病院の河村修二先生にお話を伺い、当時のラボの雰囲気、UCSDエリアでの生活など多くのアドバイスを頂きました。河村先生と同時期に留学されていた日本人の宮本重規先生がPrincipal Investigator(PI)として現在もUCSDにおられると聞き、宮本先生にメールで留学についてご相談したところ、好意的な返事をいただきBrown教授に紹介していただきました。 こちらからメールを出した数時間後にBrown教授から直接返事が返ってきたことには驚きました。この研究室は他にアメリカ人PIが1名、ポスドク3名(イタリア人、アメリカ人、私)、大学院生2名、客員研究員 1名(ブラジル人)、テクニシャン2名、ラボマネジャー1名、専属秘書1名からなる少数のグループです。 教授は今年70歳になりましたがとても活発で、毎晩遅くまでオフィスで仕事をされます。出張することも多いですが、研究室にいるときはポスドクや大学院生に1日1回は声をかけて下さいます。大きいラボではボスとなかなか連絡がとりにくいこともあると聞いていましたので、このあたりは小規模なラボの良い点かもしれません。

研究について・・・私が大学院を卒業したのが5年前で、その後しばらく臨床をしておりましたため実験手技にブランクがあり、さらに未経験の手技も多くあり、とても即戦力とはいえない状態でのスタートでしたが、ラボの大学院生に色々教えてもらいながら、何とか研究を立ち上げるべく奮闘しております。彼らがとても親切なので助かっています。 主な研究テーマは、このラボが長年取り組んでいるカルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)という分子の、心筋リモデリングへの影響について調べることです。CaMKII心筋特異的ノックアウトマウスを使って、圧負荷心不全への反応性を見ています。このノックアウトマウスは圧負荷に伴うリモデリング、特に線維化に対して有意に抵抗性を示すことが報告されているのですが、その線維化の前段階としてのシグナル(例えば炎症系シグナルなど)との関わりについてさらに明らかにすることが当面の目標です。 心不全モデルの作成と解析は、心臓機能解析で有名なSeaweed Labと共同で行っています。Seaweed Labには歴代の研究者の集合写真が飾ってあり、当時第二内科から留学されていた先生方を拝見できます。

生活のセットアップについて・・・渡米直後にはアパート探し、電気、水道、インターネット、Social Security Number取得、車購入、家具購入など色々大変な作業がありますが、不動産会社の日本人エージェントさんが行う「セットアップサービス」という便利なサービスがあることを教えてもらいました。サンディエゴに限らずアメリカの多くの地域で似たようなサービスがあるようです。 彼らへの報酬は家賃半月分が相場なので結構高額ですが、これで時間と手間はかなり軽減できました。渡米当初は、各施設の行き方がわからない、ネットもろくに繋がらない、電話は全く自信がないという状況ですが、このサービスのおかげでエージェントさんの車であちらこちらに連れて行ってもらい(時差ボケのため助手席でよく眠っていました)、指示された通りに書類を記入するだけで手続きが進み、細かい交渉もお任せで、ストレスがほとんどなく大変助かりました。と同時に自分一人ではまだ何もできないという無力感も味わいました。アメリカ在住の親戚や、ちょうどソーク研究所に留学中だった大学時代の同期にも色々助けてもらいました。

このように留学のスタートに関しては相当恵まれた環境だったのですが、当然ながら自動車免許は自分で取得するしかなく、カリフォルニアのDepartment of Motor Vehicles (DMV)という所に何度か足を運びました。ここで筆記・実技試験をして免許を手に入れるのですが、試験はともかく手続きそのもので大いに手間取りました。彼らの仕事ぶり(よくない意味で)はカリフォルニア住民にはよく知られており、最近出た「Zootopia」というディズニー映画でも小ネタになっているほどです。 「カリフォルニア DMV」で検索を入れると色々と面白いエピソードが書かれたブログがヒットします。実際、私や妻も試験に合格してから、いつまでたっても免許証が送られてこず、散々なやり取りの末2ヶ月半後にようやく届きました(友人に言わせれば、その程度のことは大した被害ではないようです)。

英語について・・・上記のDMVは極端な例ですが、このことに限らず日常において、「質問がない」イコール「問題がない」イコール「満足している」と見なされがちなので、こちらから働きかけなければならない場面にしばしば遭遇します。そのときにはいちいち英語の壁が立ちはだかります。 渡米から半年が経ち、生活そのものには慣れてきました。しかし言葉の壁はかなりつらいものがあります。最近、ちょっと聞き取れるようになったかな・・・と思っていましたが、相手が私のレベルを気遣ってゆっくり話してくれているだけのようでもあり、ネイティブ同士で世間話が始まると一気に置いて行かれます。スピーキングも今のところ上達が感じられず、なかなか苦労しております。

休日の過ごし方について・・・次男がまだ幼いこともあって、遠出はなるべく避けており、休日は基本的に近場で過ごしています。アパートの敷地内で小さなバーベキューをしたり、お弁当を作って市内の動物園や水族館、りんご農園などに行ったりしています。 仲良くなった台湾人のご家族とメジャーリーグの観戦に行き、遠征中のイチロー選手を生で見ることもできました。この滞在中に、いつかは国立公園などにも行ってみたいと考えています。子供の保育園つながりの家族や、近くのアパートに住む日本人研究者の方々と家族ぐるみで出かけることも週末の楽しみになっています。

軌道に乗るにはまだ時間がかかりそうですし、生活も研究も正直なかなか大変ですが、家族に大きな病気もなく概ね順調に過ごすことができております。異国の地で暮らしていると、公私ともに多くの方々にお世話になっていることを強く感じます。渡米にわたり経験談やアドバイスを頂きました先生方、留学する機会を与えていただきました矢野雅文先生、そして第二内科飛翔会の皆様に厚く御礼申し上げます。

留学体験記

宮崎 要介(平成16年卒)

矢野雅文教授、岡村誉之講師の御厚意により、オランダ、ロッテルダムのErasmus Medical Center (EMC)のPatrick W. Serruys教授のもとに留学する機会をいただきました。2016年4月から留学開始し早くも6ヶ月が経ち、この貴重な経験を何とか有意義なものにしたいと思いながら、日々を過ごしています。

Serruys教授の指導の下、現在日本から3名、ブラジル、ベネズエラ、エジプト、トルコ、中国から各1名と世界各地からやってきたinternational fellowが仕事しています。また、EMC/Cardialysisに所属しておられる小沼芳信先生にも多大なご指導を頂いております。

岡村誉之講師、前任の立石裕樹先生に引き続き、山口大学から当研究室に留学するのは私で3人目になります。研究室の主な研究テーマは、OCT, IVUS, QCA, MSCTといったinvasive/non-invasive imaging modalityを用いて冠動脈ステント/生体吸収性スキャフォールド治療を様々な面から解析する研究、SYNTAX scoreに関連した研究、TAVIなどのStructural heart diseaseに関する研究と多岐にわたります。 また、Serruys教授は16,000名もの患者様がエンロールされたGLOBAL LEADERS trialのPrincipal Investigator であり、ステント留置後の抗血小板剤に関する勉強もすることができます。私は現在、主にはTAVI後の大動脈弁逆流の定量評価に携わっています。このプロジェクトの一環として山口大学とのコラボレーションも始まり今後のプロジェクトの進行を楽しみにしています。また、最近、冠動脈ステント留置後のDual antiplatelet therapyに関するReview paperを投稿することができましたので、これはいずれどこかのjournalにアクセプトされることを期待しています。

この度は、比較的急に留学させていただくことが決まりましたが、前任の立石先生にご助力をいただき、引っ越しなどの手続きは非常にスムーズにすすみました。また、EMCへの必要書類の準備・提出も滞りなく進んでいたはずでした。しかしながら、いざロッテルダムに来てみたところ、EMCの事務が私の書類の処理を忘れ、さらに書類を紛失したとかで、オランダの移民局へ書類が全く準備されていない状態で、すべて初めからやり直しになってしまいました。 通常この手続きには3ヶ月かかるということで、どうなることかとかなり心配したのですが、Serruys教授の個人秘書の力強いプッシュのおかげでなんと3週間でオランダ移民局からの滞在許可を得ることができ、またロッテルダム市への市民登録も済ませることができました

このような到着直後のハプニングはありましたが、最近は徐々に慣れてきたように思っています。私には3人の子供がいますが、international schoolに通っている7歳と5歳の子供たちは学校にも慣れ、また友達も増えて楽しんでいる様子を見て安心しています。

最後にはなりますが、この様な機会を与えてくださいました矢野教授はじめすべての先生方に感謝いたします。学会等で近くに来られることがありましたら是非お声掛けください。

Erasmus MC, Thorax Center, Cardialysis

立石 裕樹

矢野雅文教授、岡村誉之講師の御厚意によりオランダ、ロッテルダムにあるErasmus medical centerへresearch fellowとして留学する機会をいただき、2014年4月から同胸部疾患センターのcore laboratoryで専ら臨床研究に携わらせていただいております。

留学先のPatrick W Serruys教授はRAVEL、BENESTENT等のステントの臨床研究や、数々の薬剤溶出性ステントの臨床研究のprinciple investigatorを歴任された実績を持ち、現在も生体吸収ステントABSORB trialやTAVIの臨床研究に御尽力されておられます。 まだまだ慣れない環境で右も左もわからないといった状況ではありますが、日本ではなかなか味わえない最先端のかつ膨大な臨床データと、世界中から集まってきた同じInterventional Cardiologistに刺激を受けながら非常に充実した毎日を送っております。

このような貴重な機会を与えてくださった矢野教授、岡村講師の御期待にそえるよう日々研鑽に励みたいと思う毎日でございます。

University of California Davis

内海 仁志

矢野雅文教授の御厚意により、米国カリフォルニア州にあるUniversity of California Davis (UCD), Department of Pharmacology, Donald M. Bers 教授のもとに、小田哲郎先生の後任として、2013年4月から留学させていただいております。

Bers教授は、心筋細胞内カルシウム(Ca)動態制御研究の世界的権威であり、世界的に有名な数多くの研究室と共同研究もされています。Bers研究室は、Ca動態制御・ナトリウム動態制御・ミトコンドリア・興奮転写連関など多岐にわたって研究しており、20人程度の大きな研究室です。

現在、ボスのBers教授、自分を含めたポスドク2名から成るリアノジン受容体 (RyR)のグループに所属し、主に蛍光共鳴エネルギー移動法 (FRET)を用いてRyRの機能・構造について研究しています。

日本では経験できない様々な経験をしながら、仕事もプライベートも充実した研究留学生活を楽しんでいます。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださいました矢野 雅文教授をはじめ、第二内科の諸先生方に厚く御礼申し上げます。