Review(総説)を執筆しました。

久しぶりにReviewを執筆しました。単著は大変でしたが、愉しかったのでまたどこかで執筆したいと思います。

【執筆後記】
 半田(はんだ)はスズと鉛の合金で、固溶体の一種です。金属などの無機固体を構成する原子・イオンは形が球ですので、半径が類似していれば比較的容易に混合(固溶化)します。無機化合物では、原子やイオンの半径が似ていても異なる性質を示すペアがたくさんあります。例えば銅とニッケルは、周期表で隣にあるため半径はかなり似ていますが、見た目の色は異なります。無機固体は一般的に、固溶体にすることで性質が多彩になります。

 しかし、分子の固溶体は事情が異なります。例えばベンゼンは炭素原子が六角形に並んだ骨格で幾何学的に球ほど単純ではありません。分子は構成する元素の種類、結合様式、形状が多彩であり、分子自身を特徴づけます。このような分子が集まってできる分子結晶・分子固体も、無機固体と同様に幾何学的に似た(homeomorphic)分子ほど固溶化しやすいことが知られています(一般に結晶構造の一致度が90%以上が必要と言われています)。しかし、性質も似ているため固溶体の性質は無機固体ほど多彩ではありません。

 そこで、幾何的特徴が異なる(heteromorphic)分子の固溶体に興味が湧きました。古くは1970年代から現在までの研究例について、heteromorphicな分子の固溶体を中心に調べてみたところ、「これは固溶化しないのでは?」と思うような分子でも固溶体が形成する例もありました。そもそも、溶液相では分子は溶け合いやすくあまり不思議なことでは無いかもしれません。例えば、ベンゼンと水は混ざりませんが、ベンゼンとエタノールは溶け合い混合溶液を与えます。つまり、分子の幾何学的特徴の相違に加えて、構造の秩序性も固溶度を決める要因で、分子を騙すような戦略を使えばheteromorphicな分子も固溶化できます。固体から液体に近づくほど、秩序性が低下します。それに伴い分子は固溶化し易くなります。このような戦略を持てば、多彩な分子を用いてさらに多彩な固溶体を作ることができ、分子固溶体はとても興味深い物質群に見えてきました。

「homeomorphic」は固溶化しやすい分子に対して使われていた表現ですが、「heteromorphic」は反義語にあたり、私が勝手に(良いかどうかは別にして)使った言葉です。分かりにくい処もあるかと思いますが、ご意見など遠慮なくメールください。ryotsuna’at’yamaguchi-u.ac.jp