科学研究費補助金 基盤研究(S)
「植物の間接防衛の誘導機構解明と防除への応用」
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植物が病害や食害を受けた際にどの様な直接的な抵抗性を示すかに関する分子レベルでの研究は国内外ともに活発に行われてきている。
これは「食う?食われる」という2者の関係に注目した研究である。
一方、植物は害虫に食われたとき、害虫の種特異的な匂いを食害誘導的に生産・放出する。
この「匂い(揮発性の化学情報)」は食害している害虫特異的な天敵を誘引する機能がある。
この現象は、食害を受けた植物が「SOS」信号を出して、天敵をボディーガードとして雇っているという図式と考えることができる。
従って、この現象は植物の「誘導的間接防衛戦略」と位置づけられている
このような三者系の視点に立った植物の間接防衛の誘導機構の総合的な解明は本申請グループならびに京都大学農学研究科21COE「昆虫科学が拓く未来型食料環境学創成」の一部以外では、ほとんど行われていない。
本申請グループの高林と松井は平成13年度~18年度に科学技術振興機構CRESTタイプの補助金を得て、植物の間接防衛の誘導機能の解明を行ってきた。
CRESTの研究期間以前には、被害植物が生産する特異的な匂いを同種の未被害植物が受容した場合、受容株では、あたかも食害を受けたかのような誘導防衛を始めるという「植物間のコミュニケーション」の現象を世界にさきがけてnature誌に発表した。
国際的に見ると,植物-害虫-天敵が構成する三者系相互作用の分子レベルでのアプローチの重要性が急速に認識されている。
ドイツのマックスプランク研究所群に1998年化学生態学研究所が設立され,そこでは本研究と同じ植物の誘導的間接防衛に関する分子生物学的研究が主要テーマの一つに掲げられ,研究が進められている。
また,イギリスのロザムステッド耕地作物実験ステーション,サザンプトン大学、アメリカの農務省,ペンシルバニア州立大学、コーネル大学、オランダのアムステルダム大学、ワーゲニンゲン大学などの学術研究機関でも化学情報による生物間相互作用の分子レベルの研究が重要な課題として認められ,多額の研究費で積極的に進められている。
すなわち,植物の間接防衛戦略が学術的にも応用的にもきわめて重要なものであると国際的にも認識され,極めて高いレベルのもとで基礎的な研究が進んでいる。
一方でこの様な基礎研究のアウトプットの一つとして植物の誘導的間接防衛を利用した害虫防除の試みが考えられる。
この研究は、世界的に見ても申請代表者である高林らが平成14年度-18年度に「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」の補助金を得て行った成果のみである。
研究代表者らは天敵を誘引する誘導間接防衛の分子レベルでのアプローチで多くの知見を得ており、また天敵の行動制御による害虫防除の技術開発に関しても多くの独創的な研究成果を得ている。
それらは世界的に見ても最先端に位置する成果である。
しかし、これらの知見はまだ植物の間接防衛の誘導機構解明と防除への応用という氷山の一角であると考えられ、さらなる統合的な研究が不可欠である。
特に植物間のコミュニケーションの分子レベルでの解明、天敵誘引性を向上させた植物の作出は、我々のグループがオリジナリティーを持って推進すべき重要課題である。
本申請では、研究代表者が科学技術振興機構CREST並びに生研センター異分野誘導研究支援事業で得られた成果を統合し、植物の間接防衛の誘導機構解明と防除への応用に関してさらに独創的、先駆的な研究を格段に発展させる事を目的とする。
本研究はアウトプットとして持続的農業技術生産に寄与する事を共通目的として、植物の誘導的間接防衛の解析を主要な作物が属する科を用いて行う。次の2項目に焦点を絞って推進する。
(1)フィトオキシリピン経路の間接防衛に果たす役割の全体像の解明とその応用:この項目ではすでに作出しているフィトオキシリピン経路の酵素ヒドロペルオキシドリアーゼ(HPL)のセンス体、アンチセンス体と同経路のリポキシゲナーゼセンス体を大型温室レベルで比較する。
HPLセンス体では緑のかおりの生産性が高まり、ジャスモン酸の生産性はほぼ変わらない。
一方、LOXセンス体は本項目の解析対象であるが、緑のかおり、ジャスモン酸共に生産性が高まると予測される。
経路内で強化する酵素を変え、どの酵素の改変が植物の誘導防衛能力向上にどのように寄与するかを比較検討する。
実験の結果によって、それ以外の同経路の酵素(アレンオキシドシンターゼ:AOX)、青葉アルコールメチル化酵素(chat)なども臨機応変に検討対象に加える。
また同経路の活性化に働く害虫のエリシターの解析をおこない、エリシターの作用を明らかにする。また、フィトオキシリピン経路は誘導的直接防衛にも関与している。
ここでは我々に馴染み深く、我々のグループでの研究の蓄積がある除虫菊の差中性分ピレトリンの生合成を例に、誘導防衛の制御機構を解明する。
この研究より揮発性テルペンの整合性の制御機構の知見も得られる。
(2)植物の揮発性物質が生態系の生物間相互作用ネットワークに及ぼす影響の解明とその応用:植物間の揮発性物質を解したコミュニケーションの聞き手側植物の揮発性物質受容体(あるいは受容機構)について実験室レベル、野外レベルで解析する。
この研究は植物の嗅覚受容というまったく新しい知見をもたらすだけでなく、植物に予防接種的に揮発性物質処理を行い免疫強化するという手法につながる研究である。