河川堤防の決壊をふせぐ研究

洪水から家屋や農地をまもってくれる土手を「堤防」といい,そのほとんどは土からできています.2015年の鬼怒川のように,洪水によって堤防が壊れて,川の水が溢れてしまうことを「決壊けっかい」といいます.決壊の原因として,川の水が堤防をこえる「越水えっすい」,川の水が堤防をけずる「侵食しんしょく」,川の水が堤防からもれて壊れる「すべり」,「パイピング」があります.

しかし,堤防は長い時間をかけて少しずつ築かれてきたもので,その中がどのようになっているか,ほとんど分かっていません.また,堤防がどのような過程で決壊するのか,いまだ明らかになっていないことも多くあります.森研究室では,特に浸透によって河川堤防が決壊することをふせぐための研究を実施しています.

弱点を探す!決壊の前ぶれをキャッチ!

モニタリングによる弱点箇所の把握

2012年に福岡県の矢部川では,川の水が堤防からもれて地面の砂が噴き出してしまうことによって,堤防が決壊しました.堤防の下に水を通しやすい砂の層があり,パイピングが発生したことが原因と考えられています.


これまで堤防の中やその下にどの様な土があるか,左の写真のような「ボーリング」という細長い土を掘る方法を使って,調べてきました.しかし,矢部川の決壊の原因となった砂の層は何十キロもある堤防のおよそ130メートルの範囲にしかないもので,ボーリングで見つけるのはとても難しいものでした.また,人か直接゙堤防を見る点検を行っていますが,普段の堤防を見ているだけでは,決壊の前ぶれを把握するのは難しいことです.

そこで,洪水のときにパイピングの前ぶれとなる地面のふくらみをに機械で測る「モニタリング」により,長い堤防の弱点を明らかにできないか研究を行っています.左の写真は,矢部川のように砂の層を堤防の下に設置した模型を作って,川の水が高くなったときに,地面にどのようなふくらむか実験したものです.

レーザースキャナという機械を使って測った結果,左の図の茶色の部分のように大きな所では3cmほどのふくらみができていることが分かりました.その後,川の水を上昇させると矢部川のようにパイピングが発生し,堤防の模型は決壊しました.まだ実際の堤防で使うには解決すべき課題はおおいですが,実用化し弱点箇所の把握できるよう研究をすすめています.

主な発表論文
倉田大輔,笹岡信吾,福原直樹,森啓年,服部敦,吉田直人,石原雅規,佐々木哲也:河川堤防の進行性破壊における前兆となる地表変位の把握,第3回地盤工学から見た堤防技術シンポジウム,pp17-20,2015.12

写真出典:国土交通省九州地方整備局

中までまる見え!つぶつぶで明らかに!

粒子法による危険な外力と地盤条件の解明

それでは,どれくらい地面がふくらんだら,堤防は決壊するのでしょうか.それを知るためには、パイピングのとき堤防の中で何が起こっているのか知ることが大事です.しかし,土の中で起こるパイピングを直接見ることはできません.

そこで,地面のふくらみと中で起こっていることの関係を知るために,つぶつぶを使って土の動きをコンピュータで計算する方法(「粒子法」といいます)を使った研究をしています.左の図は,上で紹介した実験を粒子法により計算したものです.堤防の下の地面の砂の層から,砂が地面から噴き出しているのかが分かります.堤防にとって危険な外力と地盤条件を解明するため,土と水の相互作用をどう計算するかなどの課題に取り組んでいます.

主な発表論文
森啓年,福原直樹,服部敦,桑野玲子,曽我健一,齊藤由紀子,佐々木哲也:粒子法による河川堤防の進行性すべり破壊に関する解析的検討,地盤工学ジャーナル,Vol. 9,No. 4,pp687-696,2014.12
下川大介,森啓年,笹岡信吾,服部敦:河川堤防の盤膨れ及び亀裂発生の SPH 法による再現解析,第3回地盤工学から見た堤防技術シンポジウム,pp81-82,2015.12

環境にやさしい道路盛土の研究

インターネットで注文したものが,全国どこでも数日で自宅に届く,このような便利なくらしも道路のおかげです.しかし,山が多い日本で道路を作るときには,自然への影響を十分に考える必要があります.森研究室では,山に道路を建設するときの環境への影響を少なくするための研究を実施しています.

山の斜面のコンクリートを減らします!

軽量盛土・補強土による植生の保全

山に道路を建設する場合,斜面をけずって(切土といいます)道路をつくることがあります.その場合,けずった斜面がくずれないように,コンクリートなどで覆ったりする必要があります.そこで,左の写真の様に軽量盛土や補強土といわれる垂直に壁を立てて道路の盛土を建設し,できるだけ斜面をけずらないようにして,環境への影響を少なくする技術があります.

この技術を使うことで,これまでの切土を主体とした道路の建設に比べて,斜面をけずる面積が半分以下になると試算されました.左の写真は通常の道路建設のイメージ図です.樹木がない切土の面が大きく発生しています.



これを,軽量盛土や補強土にした場合が左のイメージ図です.切土の面が先ほどの図と比べて大きく減っています.条件にもよりますが,この技術を使うことで,斜面をけずる面積を半分以下にでき,工事の費用の低減にも役立つことが分かっています.

主な発表論文
森啓年,大野真希,桑野玲子,恒岡伸幸:気泡混合土を利用した軽量盛土工法に関する研究,第5回環境地盤工学シンポジウム,pp.195-200,2003.7

厄介な自然の恵みにもしっかり対応!

自然由来重金属等のリスクマネジメント

温泉が多い日本では,火山の活動も活発です.その火山の活動の副産物として,火山のまわりの岩や石には自然に由来する重金属等が存在する場合があります.そのため,道路のトンネルを掘ったりや斜面をけずったときに,重金属等をふくむ岩石・土砂が発生する場合があります.左の写真をみると,赤茶色の部分がみえます.これは,斜面の岩や石に含まれる鉄が溶け出したもので,一緒に含まれる鉛やひ素などの重金属が問題になる場合があります.

そこで,岩石・土砂に含まれる重金属等がどれくらい遠くまで雨水や地下水によって運ばれるか計算して,わたしたちのくらしに影響を与えないようにする研究を行っています.左の図はその例で,赤い部分にある重金属が雨水や地下水によって,どのように移動するか計算したものです.

主な発表論文
乾徹,品川俊介,森啓年,田本修一:建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応, 資源・素材2009 C3-4,pp.159-164,2009.9
土木研究所:建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)(案),土木研究所資料第4156号,2010.3

図出典:(株)ダイヤコンサルタント菱谷氏

あたらしい土の開発

土をしめ固めたり,セメントをまぜて固めたりして,わたしたちはくらしを支えるために使っています.そのような土の使いみちを拡げるため,いろいろな材料をまぜたり,特別な処理をした新しい土の研究が進められています.森研究室では,その中でも水に浮く軽い土やドロドロの土を便利に使う技術を研究しています.

水に浮く土!土の常識を変える!

建設発生土の有効利用技術

工事で掘った土はどこにいくのでしょうか.国土交通省の調べでは,公共工事で年間1億4000万m3(東京ドームおよそ113個分)もの土が発生し,その6割は土捨て場といわれる受入地へ運ばれます.その捨てられる土を有効利用することが,環境への影響を少なくするために求められています.

土を有効利用する技術の一つとして,軽い土を作るものがあります.例えば,左上の写真のひげそりに使う泡のようなものを土にまぜることで,軽い土をつくることができます.その泡を土と水,セメントとまぜることで,左の写真のようにドロドロの土ができあがります.このドロドロの土はセメントのおかげで,固いスポンジのように固まります.その軽い土を使うことで,やわらかい土地でも沈みにくい道路や上の研究で紹介した山の斜面をけずる面積を少なくできる道路を作ることができます.泡のまぜる量をおおくすることで,水に浮く土をつくることもできます.

次に紹介したいのは,水の中にあったドロドロの土を便利に使う技術です.ドロドロの土をジオテキスタイルという丈夫な布で作られた袋に入れ,水だけ抜いてやり,左の写真のように大きな土のうとして使うことができます.出てくる水は布でろ過されるので,ダイオキシン類のような土にしっかりくっついた有害物質を袋の中に入れたまま,水だけ抜くこともできます.

ほかにも,土に短い糸をまぜることで,粘り強い土を作る技術もあります.この技術は,植物を生やした場合の根と同じ効果があります.そのため,植物がまだ生えていない切土や盛土の表面が,雨によってくずれてしまうことをふせぐことができます.


主な発表論文
土木研究所:袋詰脱水処理工法による高含水比ダイオキシン類汚染底質・土壌封じ込めマニュアル(案),土木研究所資料第3902号,2003.7
森啓年,古本一司,大野真希,小橋秀俊:建設発生土リサイクル技術の適用用途拡大と技術向上の取り組み,土木技術資料46-1,(財)土木研究センター,pp.26-31,2004.1

写真出典:HGSコンソーシアム

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