医局案内

講座の歴史

【初代教授】故小沢政次先生
昭和21年1月~昭和29年3月

 山口大学医学部内科学第二講座は故小沢政次先生が初代教授として昭和21年1月に開設され、平成8年には50周年を迎えました。故小沢先生は、一般内科学:呼吸器疾患、感染症、血液学等について多くの医師を育てられ、現在その先生たちの活躍が見られます。

【第二代教授】三瀬淳一先生
昭和29年4月~昭和52年8月

 第二代教授として三瀬淳一先生が昭和29年4月から赴任されました。三瀬先生は、京都大学医学部内科学第三講座教授故前川孫二郎先生の門下生で循環器病学を専門とされ、殊に右心カテーテル法による肺循環の研究は、わが国での創始者として名高い先生でした。従って内科学第二講座は主として循環器病学一色となりました。 教室の研究もこれを基礎に進められ、右心カテーテル検査も火木土の午後に行われ、午後9~10時頃終わることも再三でした。その時の圧、ガス分析、pH等の測定器に関しても現在の進歩したものでなく手製の測定器で、思えば非常に懐かしく感じるものです。その中で肺循環、呼吸機能の研究、ことに呼吸中枢のCO2感受性の研究、心疾患における体位変換時の血行動態の研究等興味ある研究が進められました。 一方三瀬先生は日本循環器学会中国四国地方会をつくられ、山口県はもとより中国四国地方の循環器病学の発展に貢献されました。現在では中国・四国に事務局が分かれ、中国支部の事務局が教室内に設置されております。昭和49年には第38回日本循環器学会総会が三瀬淳一会長のもとに山口市において開催されました。その後教室の研究も心カテ班、呼吸器班以外に心音図班、脂質班、腎・高血班、免疫リューマチ班等の活躍が目立つようになりました。 教室員も毎年3~7名の入局者があり漸次多くなり、山口大学医学部の中でも大世帯となり、教室の関連病院も増加しております。教室の大きな役割の一つは優れた臨床医の育成であり、このため医学生の卒然・卒後教育には特に注力いたします。見学型から診療参加型にシフトし、循環器・呼吸器・膠原病・腎疾患の初期対応から専門的治療までのプロセスをしっかり学べるよう学生・研修医を診療活動に組み込み、指導医によるマンツーマンの指導を中心とした教育環境を強固にいたします。とくに第二内科はチーム医療を得意としており、ダイナミックな循環器救急診療を学ぶ場としては最適です。

【第三代教授】楠川禮造先生
昭和52年9月~平成4年8月

 昭和52年9月より山口大学医学部内科学第二講座第三代教授として楠川禮造先生が赴任されました。楠川先生も京都大学医学部内科学第三講座の出身で三瀬先生の後輩にあたり、やはり循環器病学の権威者として高名であります。楠川先生は左心機能の病態生理が得意で、その研究、臨床、教育の面に非常に緻密な考え方で教室員の指導にあたられました。心不全の病態生理と治療、虚血性心疾患の病態生理と治療についての研究成果は目覚ましいものでした。 ことにシーメンスのシネアンジオの機械を導入され冠動脈造影による病態の把握と治療、またわが国初の食道内心エコー法の開発、動物実験による左心機能、ことに虚血心の局所心筋動態の研究等すぱらしい研究が次々と発表されました。それらのレベルも世界的なものとなり、ことにアメリカ心臓学会への演題数も増加しております。各研究班も心カテ、心音図、免疫、脂質、腎・高血圧のほか核医学、電気生理、運動負荷、CCU班等各班の活躍もみられます。第55回日本循環器学会総会は楠川先生を会長として、平成3年に京都市国際会議場で開催されました。

【第四代教授】松崎益徳先生
平成4年9月~平成24年3月

 平成4年9月から第四代教授として松崎益徳教授が就任しています。
 松崎教授は昭和47年山口大学を卒業した後、研修を大学病院、市中病院および東京女子医大で行った後、昭和52年(1977年)から日本で初めての経食道心エコー法の開発に着手し、経食道心エコー法の臨床応用を世界に先駆け始めました。その後も日進月歩に発展する心エコー法を使った多くの論文を発表してきた、本邦における心エコー法のパイオニアの一人です。昭和56年からは2年間カリフォルニア州立大学サンディエゴ校に留学しJohn Ross Jr.教授に師事、測定装置を埋め込んだ意識下犬を用い、心筋の収縮性と心筋内血流分布に関する多くの重要な研究を行い、CirculationやCirculation Researchなどの一流誌に発表しています。
 平成4年、山口大学内科学第二講座教授に就任後は冠循環、心エコー法のみならず心不全、心筋細胞内Ca++ハンドリング、脂質異常症、動脈硬化など循環器領域の幅広い分野の研究グループを指導し、多くの成果を上げてきました。平成11年から10年間、寄付講座である分子脈管病態学講座の教授を兼任し、大動脈瘤を抑制する分子を特定し、Nature Medicineにも報告しました。平成17年からは知的クラスター創生事業の責任者の一人として “音” (IVUS)と“光”(OCT)を統合した新しい冠動脈粥状硬化病変の診断法を開発しました。 また、国内の大規模臨床試験であるJELISの責任者の一人をつとめ、多価不飽和脂肪酸であるEPAの投与により、冠動脈疾患の発症が抑制される事を証明し、その成果は2007年Lancetに発表されました。また冠動脈プラークの退縮に関するスタチンの効果を検討するJAPAN-ACSおよびCOSMOS試験の統括責任者を務め、日本人を対象とした多施設大規模臨床試験でスタチンによる冠動脈粥腫の効果を初めて証明しました。平成19年これら一連の動脈硬化研究に対して動脈硬化学会賞が授与されました。 平成12年から日本循環器学会の学会誌であるJapanese Circulation Journal(現在のCirculation Journal)のEditor in Chiefを勤め、Impact Scoreを0.3から2.3へ飛躍的に上昇させ、国際的なjournalとして認知されることに貢献しました。平成16年から平成18年まで日本超音波医学会の理事長、平成16年から平成19年まで日本心臓病学会の理事長をつとめました。平成12年4月に医学研究科の再編が行われ、当講座名は内科学第二講座から器官制御医科学講座循環病態内科学、そして、現在は山口大学大学院医学系研究科器官制御医科学講座器官病態内科学専攻に変わり、松崎教授のもと、教育・研究・診療に努めています。
 平成17年4月からは山口大学附属病院長に就任し、現在3期目を勤めています。この間、大学病院の経営改善に努力し、平成20年度には大幅な収支の改善を示し、山口大学医学部附属病院が全国国立大学で収益力第1位の評価を得ています。平成20年3月には国内最大学会の一つである第72回日本循環器学会総会・学術集会の会長に就任し福岡市で16,000人を超える参加者のもと盛大に開催されました。海外からも多くの参加者があり、大変な好評をいただきました。また平成21年7月には日本動脈硬化学会を盛会のうちに開催しました。
 このように、松崎益徳教授は学問的に優れた指導力を発揮し、多くの研究分野を発展させるとともに、優れた指導力は病院経営や学会運営にも発揮され、組織の活性化と発展をもたらしてきました。

(文責:山本 健)

【第五代教授】矢野雅文先生
平成24年8月~令和5年3月

 平成24年8月から第五代教授として矢野雅文教授が就任されています。
 矢野先生は、昭和58年山口大学を卒業後、山口大学大学院医学研究科博士課程に進学され、昭和62年に学位を取得されています。その後、平成5年から平成7年まで、Boston Biomedical Research Instituteに留学され、帰国後、心不全の原因として、心筋型リアノジン受容体(RyR2)からのCa2+漏出が重要であることを世界に先んじて報告されました。 平成19年、「心不全・不整脈治療標的としてのリRyR2」に関する業績で、第32回日本循環器学会・日本心臓財団「佐藤賞」を受賞されました。平成24年8月に山口大学内科学第二講座(器官病態内科学)教授就任以降は、循環器内科はもとより、腎臓内科、膠原病内科、呼吸器内科の人材育成と山口県内の地域医療の発展に注力されました。 令和4年には、山口県内の高齢者心不全患者の心臓リハビリテーションの整備と推進、心不全研究の発展のために、高齢者心不全治療学講座(寄付講座)を設置されました。研究面では、世界的にも認知度の高い教室オリジナルな研究として、1)心筋細胞内カルシウム(Ca2+)ハンドリング是正による新たな心不全・不整脈治療法の開発、2)RyR2を治療標的にしたアルツアイマー病、腎臓病、膠原病、脂肪肝の治療法の開発、3)光干渉断層法(OCT)など冠動脈イメージングによる経皮的冠動脈インターベンションの最適化方法の探求、4)心不全予測と不整脈治療などの研究を指導されCirculation、JACC、Circulation Researchなどの多くの一流誌に掲載されました。 また、『慢性心不全患者におけるダントロレンの予後および心室性不整脈に与える効果と安全性を評価する多施設ランダム化2重盲検試験(SHO-IN TRIAL)』(jRCTs061180059)を主導され、令和7年にはキーオープンの予定です。本臨床試験は、医師主導型の慢性心不全を対象としたダントロレン、プラセボを用いた2重盲検試験で、中国地方、四国地方を含む大学および第二内科関連病院の21施設からなる多施設共同試験です。臨床面では、24時間体制で急性心筋梗塞や重症心不全、難治性不整脈、感染性心内膜炎などの重症感染症に対応できる体制と県内の診療連携を強化され、急性期疾患から慢性期疾患を切れ目のない診療ができるような診療体制を構築されました。 高度先進医療に関しても、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)、補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA)、経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)などの導入に尽力されました。肺高血圧症、腎臓病や膠原病に関しても、県内の診療連携の構築や国内留学を積極的に推進し、専門医の育成に尽力されました。
 このように、教授就任後の教室運営の11年間にわたって、循環器疾患、腎臓病・膠原病に対する県内の診療体制の整備と推進、専門医の育成、研究指導と先を見据えたリーダーシップで、山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学(第二内科)の発展に大きく貢献されました。

(文責:小林 茂樹)