研究内容

トンネル磁気抵抗効果(TMR効果)

強磁性トンネル抵抗素子(Mgnetic Tunnel Junction: MTJ)は量子力学的な効果であるトンネル効果を利用した磁気抵抗素子です。高抵抗状態と低抵抗状態をそれぞれ0と1に対応させることで超省電力な次世代メモリ素子となります。その特性は磁性体電極の性能で決まり、現在は日本の産総研とキヤノンアネルバによって開発されたCoFeB/MgO/CoFeB接合が主流です。この素子を用いたメモリはMgnetoresistive Random Access Memory(MRAM)と呼ばれ、世界中で研究開発が進められています。

作製したTMR素子と模式図

磁性酸化物電極を用いたトンネル磁気抵抗素子

MTJの特性は磁性体電極の性能で決まりますが、中でももっとも重要なのは流れる電子のスピンにどれだけ偏りがあるかを示すスピン偏極度Pです。これが大きな値を持つほど大きな抵抗変化を示す素子になります。これまではスピン偏極度の高いFeCoB/MgOやホイスラー合金ととばれる金属電極の研究が盛んでした。一方で酸化物磁性体も大きなスピン偏極率が期待されています。我々は、大きなスピン偏極率を持つと予想されるFe3O4やNiCo2O4などの酸化物磁性体を活用して高機能なトンネル磁気抵抗素子を実現することを目指しています。

スピン流とその界面現象

スピンホール効果の模式図

スピントロニクスでは上向きスピン(アップスピン)電子と下向きスピン(ダウンスピン)電子の数に偏りがあるスピン偏極電流が重要な役割が果たします。近年ではアップスピン電子とダウンスピン電子が逆向きに流れることによって電荷の流れ(電流)はなくスピン角運動量だけが流れるスピン流という概念が注目され、研究が行われています。また、スピン角運動量を磁性体に流し込むことによって磁性体の磁化の方向を変えるスピン流入トルクと呼ばれる磁化制御技術も実現されています。磁化の制御に電磁石やコイルを不要にした重要技術です。

PtやIrの示すスピンホール効果と磁気界面現象

スピン流を生成する手法にPtやWなどの金属に電流を流すことで起こるスピンホール効果があります。スピンホール効果はホール効果のように伝導電子が軌道を曲げられる効果ですが、その曲がる方向がスピンに依存するため、電流方向と垂直方向にスピン流が生成します。原子番号の大きな元素はスピン軌道相互作用が大きいため、Ptなど重金属が大きなスピンホール効果を示します。

また、スピン流を磁性体に注入するには重金属を磁性体と積層する必要があります。その積層した界面で起こる現象は大変多様で、完全に理解するには至っておりません。我々はPt/CoFe2O4界面で観測される磁気近接効果やスピンホール磁気抵抗効果などを、スピン伝導測定と放射光をもちいた測定を用いて調べています。

巨大な磁気応答を示す新材料開発

スピンや磁性の関与する現象は様々なものがあります。それぞれが学問的に大変興味深いものであり、またそれだけではなく、その効果が大きければ社会に役立つ材料やデバイスになり得ます。ではどうすれば大きな効果が得られるか、その鍵は物質の電子状態にあります。特に最近、特殊な”トポロジカル”な電子状態を持つ材料が巨大な磁気応答現象を示すことが見いだされ注目されています。

準安定Fe-Sn系合金薄膜の開発

磁性材料といえばFeですが、これに異元素を混ぜで合金を作ることで新たな機能を発現させることができます。Fe-Sn合金はカゴメ格子と呼ばれる六角形を基調とする結晶構造を持ち、それに起因した特異な電子状態を持っています。一方Fe3X(X=Al,Ga)は体心立方晶を基調としたD03という結晶構造をもっており、こちらも特有な電子状態に起因した巨大な異常ホール効果や異常ネルンスト効果を示すことが知られています。我々は熱力学的には不安定である立方晶型Fe3Snを作製することに成功し、この異常ホール効果や異常ネルンスト効果について調べています。

Fe3Snの結晶構造(左)六方晶型D019 (中央)立方晶型D03 (右)立方晶型B2