二大国際美術展(一)
ドクメンタ


授業の目標

ドクメンタの歴史について理解する。

国際美術展の役割について考える。


1. ドクメンタの歴史

1955年、敗戦後の西ドイツで、ナチス時代に「退廃美術」として迫害された前衛芸術の祭典として、地元カッセルの画家アーノルト・ボーデが発案、開催。

ピカソ、シャガール、レームブルックの作品展示

ピカソ《鏡の前の若い女》

シャガール《赤い屋根》 《日曜日》

レームブルック《ひざまずく女》

1972年、「ドクメンタ5」は、スイス人ハラルド・ゼーマンが総指揮。以後、全体を一人の総監督が指揮する形式が基本となり、後発の国際美術展の手本となる。最も古いヴェネツィア・ビエンナーレが国別参加制度を採っていたのに対し、ドクメンタは「ノー・ボーダー」をスローガンとした。

1992年、総監督は、ベルギー人のヤン・フート。アジアやアフリカ、アメリカ先住民の作家を紹介し、現代美術の多文化主義化の方向性を打ち出した。他方、美術家よりもキュレーターが目立っている、との批判もあった。

1997年、「ドクメンタX」(第10回展)に初の女性総合監督。フランスのカトリーヌ・ダヴィッド。「第三世界の作家が少ない」、「女性作家をもっと紹介すべきだ」の批判に、「私は国連ではない」と答えたことが話題となった。

2002年、芸術監督に、初の第三世界出身者オクウィ・エンウェゾー(ナイジェリア出身)を抜擢。エンウェゾーは、共同キュレーター制を前面に押し出して、多様な文化背景を持つ複数のキュレーターの共同作業として展覧会を企画。ゼーマン以来の伝統に疑義を差し挟んだ。

2007年、「ドクメンタ12」が、ロジャー・ブーゲル、ルート・ノアック夫婦により企画される。第8回展(1987年)のマンフレート・シュネッケンブルガー以来20年ぶりにドイツ人の総監督の手に。


2-1. ドクメンタ11

(テーマ):「グローバリゼーション」、「文化多元主義」、「ポスト植民地主義」の時代の芸術―脱領域化された文化理解

芸術監督:オクウィ・エンウェゾー

会期:2002年6月8日〜9月15日

会場:フリデリチアヌム美術館、ドクメンタホール、ビンディング・元ビール工場ほか

公文書館へ移設された公式サイト:
http://www.documenta12.de/archiv/d11/data/english/index.html

  5つのプラットホーム

プラットホーム1 Democracy Unrealized (実現されていない民主主義)

プラットホーム2 Experiments With Truth (真実のもとの実験)

プラットホーム3 Créolité and Creolization (クレオール性とクレオール化) ※クレオール=ヨーロッパ人と黒人の混血

プラットホーム4 Under Siege: Four African Cities (包囲網の下で:アフリカの四都市)

プラットホーム5 Exhibition (展覧会)

  作品紹介

フリデリチアヌム美術館

1. レオン・ゴルブ(USA)《これはあなただったかもしれない》 2001年

2. 河原温《百万年(過去と現在)》 1970-2002年

アーティスト・ファイルH 河原温

3. シリン・ネシャット(イラン)《下側と反対側》 2002年

4. メシャック・ガバ(ベナン)《現代アフリカ美術館》( 部分) 1997-2002年

5. ジョルジュ・アデアグボ(ベナン)《探検の歴史に対峙するたくさんの探検家たちよ! 世界の劇場》 2002年

6. ボディス・イセク・キンゲレス(コンゴ)《キンベヴィル》 1994年


2-2. ドクメンタ12

(テーマ):「媒介としての展覧会」、美術と公共を対置した上で、さまざまな探究を可能にする体験的な空間の創出

芸術監督:ロジャー・ブーゲル、ルート・ノアック

会期:2007年6月16日〜9月15日

会場:フリデリチアヌム美術館ほか

公文書館へ移設された公式サイト: http://www.documenta.de/100_tage.html?&L=1

  作品紹介

フリデリチアヌム美術館

7. 田中敦子 《電気服》 1956年、(別画像)

8. 「雑誌プロジェクト」展示風景

9. 青木陵子《無題》(連作「記憶のドローイング」より) 1997年ほか

10. ゲアハルト・リヒター(ドイツ)《ベティ》 1977年

ヨーゼフ・ボイス(ドイツ)《7,000本の樫の木プロジェクト》 1982-87年

11. サカリン・クルエ=オン(タイ)《棚田アート・プロジェクト・カッセル》 2007年

カッセル州立美術館(ヴィルヘルムスヘーエ城)

12. アラン・セクラ(USA)《難破船と労働者たち》 2005-07年

ヘラクレス像のある山頂からのカッセルの眺望

ヘラクレス像のある要塞

13. ニバラン・チャンドラ・ゴーシュ(インド) 1900年頃/葛飾北斎『万職図考』 1835年

14. ケリー・ジェームズ・マーシャル(USA)《失踪した少年たち》 1992/93年

15. ゾフィア・クリク(ポーランド)《私自身の豪華さU》 1997年

16. ペーテル・フリードル(オーストリア/ドイツ)《動物園物語》 2007年


3. まとめ

 ・ドクメンタの歴史

―退廃美術への迫害に対する反省から始まる

―最新動向を一堂に会する美術展から未来の可能性へ向けた実験室へ

 ・国際美術展の役割

―今後の方向性を知る「羅針盤」

―世界の最新動向を知る「窓」

―社会を見つめ直すための「鏡」

―(美術家にとって)世界的な舞台への「扉」「登竜門」

―さまざまな交流が生まれる「広場」


過去の講義ノートへのリンク

二〇一〇年前期 <第九講> 二大国際美術展(一)ドクメンタ

二〇〇九年前期 <第二講> 事例研究(二)ドクメンタ

二〇〇八年前期 <第二講> 国際美術展概説(二)ドクメンタ

二〇〇七年前期 <第一講> 国際美術展の歴史(一)ヨーロッパ/<第八講> 事例研究(五)第十二回ドクメンタ

二〇〇四年前期  ドクメンタ紹介

二〇〇二年後期(美術史) Documenta11画像一覧