研究内容紹介

免疫システムは、多様な機能を有する細胞群が時間的・空間的相互作用を介して極めて効率的に生体防御機能を発現する一方で、非反応時にはシステム全体としての恒常性・安定性が維持されるよう制御されています。免疫応答の低下は病原体排除の障害による感染症を引き起こし、免疫恒常性の破綻は自己免疫疾患の病因となります。このような免疫システムの機能制御は、様々な機能性蛋白、例えば細胞外に分泌される可溶性蛋白、細胞膜に発現される膜型蛋白、細胞質内や核内に存在するシグナル伝達蛋白などに依存しています。従って、免疫疾患に対する治療法開発を目指した研究においては、これらの機能性蛋白を同定し、その働きを解明することがもっとも重要かつ直接的な研究戦略です。我々のグループは、免疫系機能性蛋白の中でも特に共シグナル分子群とよばれる細胞膜蛋白に焦点を絞り、そのクローニングと機能解析をするとともに、免疫関連疾患における役割を明らかにしています。さらに、共シグナル分子の機能を制御することにより、癌や自己免疫、移植に伴う免疫反応などに対する新規免疫療法を開発しています。

また我々は、基礎研究の成果を臨床応用するためのトランスレーショナル研究に積極的に取り組んでいます。臨床研究グループとの密接な共同研究やバイオベンチャーを含めたライフサイエンス企業との提携を推進し、新しい免疫療法の臨床試験や免疫系バイオマーカーの検索などを介して、我々の基礎研究での成果を効率的に臨床現場に還元することを目指しています。このような取り組みによって得られる臨床での知見やニーズは何よりも重要であり、それらを今後の基礎研究に反映させ、免疫療法のさらなる改良を行うことで、我々の研究成果を世界に向けて発信することを目標としています。

同種異系(アロ)骨髄移植により誘発される移植片対宿主病(Graft-versus-host disease:GVHD)は、HVEM分子を介した刺激性共シグナルを阻害する抗体(anti-HVEM)の投与により治療できる(Xu et al., Blood, 2007)。

<我々の取り組んでいる研究テーマ>

免疫系における共シグナル分子に関する基礎研究

  1. 腫瘍壊死因子(TNF)関連分子群
    LIGHT、HVEM、4-1BB分子の免疫制御機能に関する研究
  2. イムノグロブリン関連分子群
    B7-H1、PD-1、BTLA、LAIR-1分子の免疫制御機能に関する研究

共シグナル分子を標的とした新しい免疫療法の開発および臨床応用

  1. 癌に対する遺伝子療法、抗体療法、リンパ球移入療法などの開発
  2. 骨髄移植に伴うGVHDに対する新規免疫療法の開発
  3. 自己免疫疾患に対する治療法の開発
  4. 感染症に対する効果的なワクチンの開発