工学部での数学 ~数学勉強のすすめ
こんにちは、私は工学部で数学の講義全般を担当する教員です。大学の教員は、講義、演習、実験や卒業研究の担当などの教育と、自分の専門分野の研究という2つの仕事があります。私の場合、教育は工学部の学生さんに数学を教えることであり、研究の方は複素解析学(複素数 z=x+iy で行う微積分のこと)という、数学の1分野を専門にやっています。
何で工学部なのに数学の教員がいるのかと聞かれると困るのですが、それは工学部の究極の目標である「物作り」には、数学が使えないとどうしようもないことがあり、厭でも数学を勉強しておかないといけないからです。そこで私のような数学の専門家が雇われているというわけです。ビルやダムを作ったり、ロケットや自動車を作ったり、新しい材料や電子デバイス、化合物を作ったり、コンピュータのプログラムを書いたりとか、工学部は「物作り」の為の勉強をするところです。それだったら数学ではなくて、物理とか化学の方が必要じゃないのと思うかもしれませんが、数学です。もちろん物理も化学も、生物も地学も必要なんですが、理科系の殆どの科目の基礎となるのが数学なんです。例えば高校で習う物理学でニュートンの運動方程式という微分方程式が出てきますが、高校では単に出てくるだけで、数学を使って解くことはしません。でも大学では実際に数学を駆使して解きます。このように、物理や化学などの理論は数学を使って組み立てることが多いのですが、高校とは違い、大学ではその数学を使った組み立て方までを学習します。
今まで読んできて、「ただでさえ数学が苦手で厭なのに、大学に入ってからもまだ苦労は続くのか」と、ため息をつきたくなってきたんではないでしょうか? その心配はもっともなんですが、でもそれは大学に入ってからほぼ2年半から3年間の苦労で終わりです。皆さんが高校で学んでいる微積分や、行列にベクトルなどの知識を基本として今度は f(x,y) なんかの多変数の関数の微分積分や、3次、4次の行列、ベクトルなどを勉強し、それから微分方程式の解き方とか、複素数での微分積分などを学べば、普通の「物作り」には十分です。つまり小学校の算数から高校までの数学の12年間の勉強に2,3年間の大学での数学の勉強を足せば、ビルや家は設計できます。こんなビルを造るとどれくらい大きな台風がきたら倒れるかは分かりませんが、どれくらい大きな台風まで倒れず、耐えられるかは分かります(微妙ですけど違いが分かります?)。そういうことが受験を突破したあと、もう2,3年の勉強で理解ができるようになります。そうなんですゴールは近いんです。
数学というのは積み上げ式の学問で、地道な努力が必要です。数学の講義も、聞けば判るということは決してありません。講義の前後の予習に復習、そして問題を自分で考えて解くという練習を積まなければ決して身につきません。つらく暗い勉強ですから、ともすれば諦めてしまいがちです。山大の工学部では、勉強する学生に色々な支援を行っています。その1つとして3年次の年末に数学統一試験という試験を行っています。これは山大だけでなく他大学(広島大 etc.)と一緒に数学の試験を行い、大学での3年間の数学の勉強の成果を客観的に知ってもらうこと、そして受験の為の勉強を通じて3年間の数学の勉強の総まとめをすることなどの意義があります。そして成績優秀者には各種の賞を贈呈して表彰しています。