研究業績(2007-2009年)


福島 千加子(大学院4年)

2009年特許出願

2009年特許出願




 今回、「子宮頸癌の検出法」と題した特許出願を行うことができました。これは大学院での研究テーマである「子宮頸部扁平上皮癌と正常子宮頸部扁平上皮における蛋白質発現の違いに関する検討」につい ての研究成果の一部をまとめたものです。

 バイオマーカー、あるいは分子標的薬といったキーワードは、現在ひとつのトピックスです。というのも、ある癌腫では癌に強く発現する分子を標的とした薬剤により予後を劇的に改善した例があり、全身のあらゆる癌において薬剤の標的となりうる分子や蛋白の検索が重要な課題となっています。そのための手法の一つに、今回行ったプロテオミクスがあります。研究の概略は本年度の日産婦山口地方部会で発表させて頂いたので詳細は割愛させて頂きますが、2次元電気泳動と質量分析器を組み合わせ組織における 蛋白質発現を網羅的にみる本手法は、ある程度方法論としては確立し以前に比べ簡単行えるようになっ たとはいえ、時間と労力と根気を要するものでした。さらに子宮頸癌における独特の事情—腫瘍は容易に 子宮頸部を占拠し正常との比較ができないうえ、前治療のない手術症例は少ないこと−が、研究をより困 難にしました。それでも工夫を重ねた地道な研究の末、子宮頸癌において発現が増強あるいは現弱して いる蛋白質を5種同定しました。これを本学の知的財産本部に報告したところ、独創性が高く価値がある ものと評価して頂き、今回の特許出願となりました。

 特許出願というと、知識や利益の独占というイメージがあります。もちろん厳しい研究の世界において知的財産の保護は大切です。しかしそれ以上に、新知見を人類一般の利益とすることが特許出願の真意です。つまり、特許出願により共同研究あるいは研究や臨床化へのバックアップを行ってくれる提携企業・機関を得、臨床応用まで発展させることが目標です。またこのことが貴重な組織を提供してくださった患者の方々への何よりのお礼となると信じています。

 このように大きな夢を掲げていますが、道のりは遥か遠く、実際にはまだまだ本研究室で基礎データを重ねる必要があります。これからも研究室/腫瘍班一丸となり、がんばっていきたいと思う所存です。

 最後になりますが、ここまで漕ぎ着けることができたのも、伝統ある山口大学産科婦人科学教室であればこそと感じています。多くの先生方の論文を参考にさせて頂きましたし、研究的視点と臨床的視点から様々なサジェスチョンも頂きました。このようなことは申し上げるべきではないのかもしれませんが、経済的にも逼迫することなく行うべき実験を行えるというのはありがたい環境であり、同門の先生方のご援助の賜物と深謝しています。すでに私どもは、5種の蛋白から的を絞った研究に移っています。また有意義なご報告ができるよう頑張っていますので、楽しみにして頂ければと思います。


【杉野教授からのコメント】

福島千加子君(平成15年卒、大学院4年)は、腫瘍グループで子宮頸癌の研究を行っています。子宮頸癌に特異的に発現が増加していたり、低下していたりするタンパクを最先端の方法で検出し、腫瘍マーカーに代表されるようなバイオ・マーカーの検索をテーマとして研究を行っています。実験方法はノーベル賞を受賞された田中耕一博士が開発された質量分析法をタンパク質の分析に用いています。すでにいくつかのタンパクを発見しており、これらのタンパク発現が子宮頸癌の診断に有用であることで、特許を取得することができました。大学院生の学位テーマの研究で特許を取得したということは、すばらしいことと関心しております。彼女の日ごろのがんばりを見ていると、単に幸運だけではなく、たゆまぬ努力の結果と思います。さらに、学会発表による公表を差し控えているような非常に興味深いデータも見出しており、臨床応用も含め、今後の展開が非常に楽しみです。