研究内容



内分泌班

生殖におけるメラトニンの役割:

 メラトニンは松果体より分泌されるホルモンですが、卵巣内でも重要な役割を担っていることが示唆されています。当科では特に活性酸素種による卵の質の低下に注目し、卵の質の改善を期待したメラトニン投与を臨床応用しています。加齢に伴う卵胞数の減少や卵の質の低下がメラトニンを長期間投与することで予防できるのではないか、そして、卵巣の加齢を少しでも遅らせることができれば40歳前後の不妊患者を減少させることができるかもしれない、と日々考えて研究に励んでいます。


子宮内膜脱落膜化、卵巣黄体化のメカニズムの解明:

 当研究室では古くより、女性生殖器における生理学的な機能についての基礎的研究を行って参りました。特に、子宮内膜は排卵後に脱落膜化という変化を起こし着床に備えます。その際に多種多様の遺伝子発現が劇的に変化します。我々は、RNAシークエンス法やChIPシークエンス法を用いた全ゲノム解析を行うことで、子宮内膜間質細胞の脱落膜化における遺伝子発現へのエピジェネティクス調節機構を世界に先駆けて解明しました。また、卵巣も子宮内膜同様に月経周期において劇的に変化を起こす臓器であります。我々は、排卵後に形成される黄体の生理的機能の解明について研究を行っています。血管新生・安定性、成長ホルモン等による調節機構、プロスタグランディン系の関与、DNAメチル化・ヒストン修飾・クロマチン構造などのエピジェネティクス機構の関与を明らかにしてきました。また、黄体におけるゲノムワイド遺伝子発現解析も行っています。これらの結果を着床不全や黄体機能不全などの不妊症の原因解明に役立てるように日々研究を進めています。


子宮内膜症におけるエピジェネティクス:

 子宮内膜症は子宮筋腫とともに発症頻度の高い病気で、成人女性の1割ほどが発症します。ガンのような悪性の病気ではありませんが、子宮筋腫と同様に月経痛、骨盤痛、貧血を引き起こし、生活の質(QOL)を著しく低下させる疾患です。また、不妊症との関連も報告されています。子宮内膜症の発症には、家族歴などの遺伝的な要素が関係すると考えられていますが、実は生活環境によっても左右されることがわかっています。生物の遺伝子は、DNA(デオキシリボ核酸)というものが連なって配列されて構成されています。遺伝的な影響は、このDNAが間違って配列されたために異常な遺伝子が作られてしまい、本来とは違う機能を発揮したり、もしくは遺伝子自体が上手く作られなくなってしまうことに由来します。一方、生活環境による影響を考える場合、両親から受け継いだ正常なDNA情報はそのままに、その遺伝子の使い方を決める機構(発現制御機構)が、何らかの環境因子によって破綻してしまうと考えられています。前者は「ジェネティクス」と呼ばれ、後者は「エピ・ジェネティクス」と呼ばれます。我々は、子宮内膜症の発症が環境因子によって影響されることから、エピジェネティクスの異常が発症や進行の根幹にあるのではないかと考えています。私たちはこれまでに、エピジェネティクスの中で中心的な役割を果たすDNAメチル化に着目して研究を行い、子宮内膜症では多くのDNAメチル化異常が生じて、遺伝子の発現制御機構が異常をきたしていることを発見してきました。私たちは現在、バイオインフォマティクスというコンピュータ解析技術を用いて、子宮内膜症を引き起こす中心遺伝子(マスター遺伝子)の発見に努めています。実際、マスター遺伝子の候補遺伝子が絞り込まれてきており、その遺伝子の異常が疾患発症と関連するかについて研究を進めています。そのような遺伝子が証明されれば、その遺伝子を標的とした治療に結びつく可能性があり、多くの方を悩ませる子宮内膜症の医療に貢献できると考えています。


子宮筋腫におけるエピジェネティクス:

 子宮筋腫は成人女性の約3割で生じる腫瘍であり、良性ではありますが月経痛、骨盤痛や貧血等を引起こし患者の健康的な生活を損ない、さらに不妊症の原因にもなります。この病気の発生機序は現在明らかでありませんが、ホルモン環境、栄養、生活習慣などの環境要因が大きく影響することがわかっています。私たちは、子宮筋腫の発生にもエピジェネティクスの変異が影響すると予想し、これまでに子宮筋腫で DNAメチル化と発現が変異した遺伝子を検索してきました。私たちは、さらに検索してきた遺伝子の情報を基に子宮筋腫を引き起こし得る遺伝子(マスター遺伝子)の特定を目指した研究を進めています。また、子宮に生じる腫瘍には良性の子宮筋腫の他に悪性の子宮肉腫があります。これらは発生場所や形状が似ていることから良性悪性の診断が難しい場合があります。私たちは組織や細胞の種類によりDNAメチル化パターンがそれぞれ異なるという性質を利用し、これまでにDNAメチル化を指標にした子宮筋腫のバイオマーカーを確立しました。この子宮筋腫のバイオマーカーを子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別診断へ応用することを目指した研究も行っています。




腫瘍班

女性性器がんの新しい診断・治療法の開発を目指しています。特に着目しているのは、当科で発見されたSCC抗原というたんぱく質です。多くの子宮頸癌の患者さんの血液にはSCC抗原がみられやすく、この量をはかることで診断や治療の助けになり、いわゆる、“腫瘍マーカー”としていまや世界中で広く使われるようになっています。癌がこのたんぱく質を自分自身のためにつくっているのなら、癌でのSCC抗原の役割を明らかにすることは、例えば、周りの正常な組織を壊して大きくなったり、あるいは、他の場所にとんでいったりするといった癌の性質をとらえることにつながるのではないかと考えています。これまでの研究から、SCC抗原は、抗癌剤が癌細胞に効果を発揮するのを阻害する働きがあることが判ってきました。
当研究室では、SCC抗原と結合する物質としてcarbonyl reductase1 (CBR1)を同定しましたが、CBR1は子宮体部類内膜腺癌において独立した予後不良因子となることが分かり、その分子機構や免疫系との関与についても徐々に解明できています。例えば、子宮扁平上皮癌や子宮体部類内膜癌の細胞株を用いた基礎的研究では、CBR1を高発現させることで細胞同士の細胞間結合に関与する分子であるE-cadherinの発現が増加し、細胞の遊走や浸潤といった癌の浸潤・転移という悪性の性質が抑えられることを報告し、臨床応用を目指して研究を行っています。
また、生体内のタンパク質合成は遺伝子を鋳型としてmessenger RNA(mRNA)という核酸にその情報を転写し、それを翻訳することで行われますが、こうした特定のタンパク質を指定するmRNAの他に、タンパク質を指定しないnon-cording RNAと呼ばれる核酸が存在し、こうしたnon-cording RNAが生体内のシグナルの制御に関与していることが次第にわかってきています。当研究室ではこうしたnon-cording RNAが卵巣高悪性度漿液性腺癌の発癌メカニズムにどのように関与しているかについての基礎的研究も行なっています。




周産期班

子宮頸管長短縮の取り扱い:

比較的妊娠週数が経過していて子宮頸管長が短縮した患者さんの治療方針について、これまで明確な基準は有りませんでした。つまり入院加療の必要性について、その判断に苦慮することも少なく有りませんでした。私たちは、妊娠28~31週において子宮頚管長20mm以下の短縮群と子宮頚管長21mm以上の正常群について、その後の早産率について検討を行いました。その結果、軽度の子宮収縮(子宮収縮抑制剤の点滴加療を要さない程度)までしか認めないのであれば、短縮群と正常群の間に早産の発症率に有意差はみられませんでした。つまり子宮頚管長の短縮を認めたとしても、子宮収縮が無かったり、もしくは子宮収縮抑制剤内服のみで子宮収縮がコントロールできている患者さんでは、外来管理の継続で問題ないことが分かりました。私たちはこの結果を踏まえ、頸管長短縮を認めた患者さんに十分な説明を行い、子宮収縮が軽度であれば外来管理を基本として診療に当たっています。


胎児発育不全:

子宮内胎児発育不全(FGR)は、超音波検査における胎児推定体重がそれぞれの週数平均-1.5SD以下の場合に診断されます。大体、軽い方から7%くらいの胎児に相当します。FGRの胎児では胎児機能不全やいくつかの合併症の頻度も高くなるため、入院管理を含む注意深い管理が必要になります。その一方、ただ単に小さめなだけの赤ちゃんも多く含まれており、必要のない入院管理を強いられる場合もありました。我々は、この違いを見分けるため、胎児中大脳動脈の血管抵抗(RI; resistance index)と臍帯動脈の血管抵抗(RI)の比をとったCerebro-placental ratio(中大脳動脈RI/臍帯動脈RI)という指標に着目しました。その結果、CPRが1.1未満の症例では、1.1以上の症例と比較して胎児機能不全の発症率が有意に上昇することを明らかにしました。その一方、CPRが1.1以上であれば、胎児機能不全の発症率はFGRではない胎児と差がないことがわかりました。つまり、子宮内胎児発育不全があっても、CPRが1.1以上で児の発育を認めていれば外来管理可能であることが分かりました。この結果を踏まえ、当院を受診されるFGRの妊婦さんではCPRを測定して管理方針を決定しています。


妊娠中のD-Dimer値の取り扱いについて:

D-Dimer値とはフィブリンという血の塊(血栓)に含まれる物質がプラスミンという酵素によって分解される際の生成物で、血栓症の判定に用いられる検査項目です。非妊娠状態では1.0μg/mlくらいをカットオフ値として、それ以上であれば血栓症の疑いありとして精査を行います。しかし、妊娠中は生理的に血液凝固が亢進状態にあり、非妊娠時と比較してD-Dimer値が高くなっています。そのため、D-D値が妊娠時においても血栓症の判定に有用であるのか不明でした。そこで私たちは、特に凝固能が亢進した妊娠後期において、患者さんのご協力を得てD-Dimer値を測定しました。その結果、D-Dimer値は3.02±2.54μg/mlと極めて高値であり、また血栓症の発症とD-Dimer値の間に相関関係を認めないことがわかりました。その結果を踏まえ、当科ではD-Dimer値に関係なく、帝王切開を受ける双胎妊娠や血栓症の既往など、血栓症のリスクの高い患者さんについて、分娩前に超音波による血栓検索を行っています。


双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー凝固術:

双胎間輸血症候群(TTTS)は一絨毛膜双胎に起こる特殊な病態です。二人の胎児で共有する胎盤で繋がっている血管(吻合血管と呼びます)を通じて、二人の児の血液が互いに行ったり来たりしていて、そのバランスが崩れた時に発症します。治療は、その吻合血管をレーザーで凝固して血流を遮断することにより行います。当院では平成30年4月からこの治療を再開しています。今後、当院の治療データを蓄積して学会等で報告し、周産期医療における本治療技術の向上に貢献できるように努力していきます。