研究業績(2007-2009年)


村上 明弘(講師)

2006年7月 第40回日本婦人科腫瘍学会

シンポジウム 「子宮癌における新たな予後因子」
SCC抗原の標的分子carbonyl reductase は子宮頸部扁平上皮癌の予後判定の新たな指標となる


2007年特許出願  2008年特許公開

「発明の名称  扁平上皮癌の予後判定方法」


2009年4月 第61回日本産科婦人科学会学術講演会

グッドプレゼンテーション賞
「SCC抗原の結合分子であるcarbonyl reductaseの機能解析と臨床的意義の明」




 SCC抗原は山口大学産科婦人科学教室の前教授である加藤紘先生が発見され、扁平上皮癌の腫瘍マー カーとして臨床の場で広く用いられている教科書にも載っている有名なマーカーです。SCC抗原は当教室 の腫瘍班の中心テーマでもあり、機能解析の殆どを当教室で行ってきたという自負もあります。現教授で ある杉野法広先生より研究のさらなる発展を求め、SCC抗原の機能をより明確にするために、SCC抗原と 結合する分子を発見する命題を頂いたのがこの研究の始まりでした。結合分子として同定したcarbonyl reductase (CR)の機能はその当時、十分には分かっていませんでした。抗体を作成し、多数の子宮頸部 扁平上皮癌組織を免疫染色し、染色パターンを検討したところ原発部位でのCRの発現低下症例では骨 盤リンパ節への転移が有意に多く、また予後も不良であるという興味深い結果が得られました。2006年7 月に岐阜県で開催された第40回日本婦人科腫瘍学会のシンポジウム「子宮癌における新たな予後因子」 で発表の機会を与えられました。この結果に興味を示してくださった先生から特許申請をすることを勧め ていただきました。その後、山口大学知的財産本部の学内審査と特許明細書の作成にご協力をいただき、 約4か月を要しましたが2007年1月特許出願し、2008年8月特許庁より「特許公開公報」として出願公開さ れました。現在インターネット上の特許電子図書館で閲覧可能となっています。 (URL:http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl

 さらに杉野教授を中心とした研究カンファレンスでのご助言と同門の先生方から研究資金のご援助をいただきCRの機能解析を行っております。その結果、特許の趣旨であるヒト子宮頸部扁平上皮癌組織で認 められたCRの発現低下症例ではリンパ節転移が多く、予後不良となる現象を分子機構で証明できました。 この結果により2009年第61回日本産科婦人科学会学術講演会でグッドプレゼンテーション賞を受賞する ことができました。今後は動物実験を行い、新たな分子標的治療に発展することも期待されます。

 最後に、研究のきっかけを与えてくださった加藤紘名誉教授、住浪義則先生、現在も御指導してくださる杉野法広教授、歴代の腫瘍班の先生方、さらに研究資金の御援助をしてくださる真仁会の諸先生方に厚く御礼申し上げます。


【杉野教授からのコメント】

村上明弘君(平成5年卒、講師)は、当教室のメインの研究テーマである「SCCと子宮頸癌」について、特に基礎的研究を中心に行っています。最近では、SCC と結合する Carbonyl Reductase というタンパクを発見し、このタンパクが子宮扁平上皮癌の浸潤・転移に関与していることを証明し、さらにそのタンパク発現が予後と関連することを見出したことから、特許を取得することができました。今後の臨床応用などが楽しみです。この研究成果を日本婦人科腫瘍学会でのシンポジウムで講演しております。村上君は、培養細胞への遺伝子導入実験などの高度な実験をいとも簡単にルーティーンワークのレベルで行っています。今後のさらなる発展を期待したいと思います。