研究業績(2007-2009年)


中田 雅彦(准教授)

2006年5月26‐28日 日本超音波医学会第79回学術集会

シンポジウム「双胎間輸血症候群の管理・治療・評価」
レーザー凝固術が胎児胎盤血流と尿産生に与える影響について


2006年10月20日、21日 第4回日本胎児治療学会

シンポジウム「TTTSに対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)の今 後の課題」
胎児死亡減少のために手技上の工夫 ー SequenKal FLP —


2007年4月13‐17日 第59回日本産科婦人科学会

シンポジウム2「多胎妊娠の予防と管理」
—双胎間輸血症候群における胎児血行動態に基づいた治療戦略




 双胎間輸血症候群(TTTS)は、一絨毛膜性(MD)双胎の約10%に合併し,従来行われていた羊水過多に対する羊水除去等による保存療法では、約半数の症例が、周産期死亡もしくは神経学的後遺症を合併し ていた。胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)は、その根本的な原因である胎盤吻合血管を 凝固・遮断する方法で、本邦では平成14年度から、山口大学でも平成15年度から導入し、実績を挙げて いる。当院は、大学病院では唯一の先進医療の認可施設としてその役割を担っている。

 2006年に行われたそれぞれのシンポジウムでは、本邦における現状成績が、レーザー先進国である欧 米と比較し、同等もしくは良好な成績であることが報告された。それと同時に、常位胎盤早期剥離、子宮 出血やMirror 症候群といった重篤な母体合併症を来す事、胎児死亡がある一定の割合で引き起こされる 事も明らかとなった。関東における国立成育医療センター、中部・関西における聖隷浜松総合病院。西日 本における山口大学といった広域をカバーする拠点施設での症例数の蓄積により、成績の向上とともに, より高度な医療技術の開発の必要性が明らかとなった一年だった。そして,今後,胎児死亡の減少を図り、母体の合併症を予防するため、“洗練された”治療法への発展が必要であると感じた。

 翌年4月に京都市で開催された第59回日本産科婦人科学会学術講演会では、前年度からの症例の蓄 積の検討に加え、更に吻合血管の凝固法の工夫について言及した。胎盤の吻合血管には動脈—静脈吻合、動脈—動脈吻合、静脈—静脈吻合の3種類が認められるが、動脈—動脈吻合に特徴的なことが、胎盤小葉を介さずに胎児循環が直接繋がっていることである。この血管の存在によってTTTSは発症しにくいと云われているが、一旦発症した場合は、急激な血行動態の変化を来すことがあるため、その扱いには苦慮する。当大学で考案した方法は、この動脈—動脈吻合による術中の血行動態変化を防ぐ目的で、動脈—動脈吻合を最初に凝固するという方法である。Preliminary studyではあるが、𦜝帯動脈血流異常伴う供血児において70%の胎児死亡率が20%前後に減少するというデータを得ている。

 双胎間輸血症候群に対する本格的な治療法は、ようやく軌道に乗り始めたと言える。発症のメカニズム、予後不良となる病態の解明には、まだまだ多くの課題が山積みであり、臨床研究のみならず、基礎研究等の導入によって将来の道筋を見いだしたい所存である。


【杉野教授からのコメント】

中田雅彦君(平成2年卒、周産母子センター准教授)は、胎児治療を中心とした先進医療を活発に行っています。特に双胎間輸血症候群に対する胎盤吻合血管レーザー凝固術は、山口大学が西日本で唯一の治療施設です。そのため、西日本中から多くの紹介患者が集まっており、中田君が中心となってこの治療を行っています。レーザー治療をはじめた平成16年は11例、17年は12例、18年は29例、19年は24例、20年は31例とこれまで計107例のレーザー治療を行っています。日本産科婦人科学会をはじめ多くの周産期関連学会のシンポジウムで講演しており、この分野の第一人者です。