研究業績(2007-2009年)


田村 博史(講師)


2009年4月4日 第61回日本産科婦人科学会学術講演会

「シンポジウム2 中枢神経関連生理活性物質の生殖機能へのかかわり」
排卵過程におけるメラトニンの防御的役割
‐メラトニンは卵胞内で卵と顆粒膜細胞を酸化ストレスから護る‐




 この度、第61回日本産科婦人科学会学術講演会のシンポジウムにおいて、発表の機会を与えていた だきました。[排卵過程におけるメラトニンの防御的役割‐メラトニンは卵胞内で卵と顆粒膜細胞を酸化ストレスから護る‐]という演題で、松果体ホルモンであるメラトニンは、内分泌作用のみならず、活性酸素などのフリーラジカルを消去する抗酸化作用を有することが知られています。また、メラトニンは卵胞液中に高濃度に存在しており、私はメラトニンが卵胞内において排卵過程で発生する活性酸素種を消去し、卵や顆粒膜細胞を保護しているのではないかと考えました。マウス卵やヒト顆粒膜細胞を使った培養実験では活性酸素が卵の成熟や顆粒膜細胞のプロゲステロン産生を抑制しますが、メラトニンはこれらを抑制する作用が確認されました。また、卵の質が不良な体外受精患者さんにメラトニンを投与すると、卵胞液中の酸化ストレスが軽減し、卵の質を改善させることができました。以上の内容を発表させていただきました。

 平成4年に入局、平成6年に大学院に入学しました。この際、加藤前教授よりメラトニンというおもしろいホルモンがあるからやってみないかと言われたのが、メラトニン研究のきっかけです。中村康彦先生の御指導の下、Journal of Pineal Researchというメラトニン専門雑誌に論文を掲載することができました。大学院卒業後も長門総合病院、済生会下関総合病院においてメラトニンの臨床研究を続け、特に、済生会では今回の発表内容である、不妊症患者における卵胞液中のメラトニンと卵の質の関係、メラトニン投与の効果について、高崎先生に御協力いただきました。平成16年に大学に戻ってから、杉野教授に御指導いただき日産婦シンポジウムにおいて発表の機会を得ることができました。

 今回の発表にあたり、御指導いただいた杉野教授、研究のきっかけを与えて下さった加藤前教授、中村康彦先生、臨床研究の多くを御協力ただいた高崎先生、山口大学産科婦人科学教室の内分泌・不妊班 の先生方に深く御礼を申し上げます。

 最後になりましたが、いつも研究資金の御援助を賜っております真仁会の諸先生方に厚く御礼申し上げます。





2009年4月25日 第82回日本内分泌学会学術総会

研究奨励賞受賞
「松果体ホルモン メラトニンと生殖」




平成21年4月23日~25日に群馬県前橋市の群馬県民会館で開催された第82回日本内分泌学会学術総 会において、平成21年度日本内分泌学会研究奨励賞を受賞いたしました。 数多くの応募の中から受賞できたことを大変光栄に感じております。4月23日の学会総会において授賞式 があり、4月25日に受賞講演がありました。『松果体ホルモン メラトニンと生殖』という演題で講演させていただきました。

 日本内分泌学会の研究奨励賞は産婦人科医が受賞することは、非常に難しく、大変名誉なことです。審査は研究歴や内分泌学会への貢献度、内分泌学に関する論文の数などがあるようです。日産婦シンポ ジウムところでも書きましたように、大学院時代から継続して松果体ホルモンであるメラトニンの研究を続けてきたことが評価されものと自負しております。私の研究の主なテーマはメラトニンと卵巣機能ですが、その他にも、長年の間にいろいろな分野でメラトニン研究をしてきました。プロラクチンサージに及ぼすメラトニン影響、妊娠とメラトニンの関係、更年期婦人の脂質代謝に及ぼすメラトニンの影響など。杉野教授の御配慮により平成19年度に1年間、University of Texas Health Science Center at San Antonio(Journal of Pineal ResearchのEditor in ChiefをされているReiter先生のラボ)へ留学させていただきました。比較的自由な時間が多かったため、それまでの自分のデータを論文にすることができましたし、また、メラトニンと妊娠、メラトニンと卵巣機能の2つの総説論文を書けたことも、大きかったのかもしれません。

 今回の受賞にあたり、御指導いただいた杉野教授、研究のきっかけを与えて下さった加藤前教授、中村康彦先生、臨床研究の多くを御協力ただいた高崎先生、山口大学産科婦人科学教室の内分泌・不妊班 の先生方に深く御礼を申し上げます。最後になりましたが、このような名誉ある賞を受賞できたのも、真仁会の諸先生がたのご支援のおかげと思っており、感謝申し上げます。


【杉野教授からのコメント】

田村博史君(平成4年卒、講師)は、「メラトニンと生殖」の分野では、日本では第一人者でありますし、世界のトップレベルにある研究者に育っております。本年度の日本産科婦人科学会でシンポジウムを担当したことは皆さんご存知と思います。さらに、田村君は本年度の日本内分泌学会の研究奨励賞を受賞しました。この賞は、日本の若手研究者に与えられるものですが、激戦の賞です。Nature, Science の論文を発表しているような若手研究者が受賞する賞です。田村君のこれまでの一貫した地道な努力により得られたメラトニンの研究成果が高く評価されたものと思います。