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国際学会・留学

海外学会参加報告


ASCVTS(Asian Society of Cardiovascular and Thoracic Surgery) 2020に参加して
藏澄宏之

 2020年2月7日~10日の期間にタイのチェンマイで開催された、ASCVTS annual meetingへ参加してきました。参加者は濱野教授と私の2名です。

 宇部-羽田、羽田-バンコク、バンコク-チェンマイの経路で学会場に向かいました。この当時、中国の武漢でCOVID-19の集団感染が発生していました。空港はいつもよりマスクを着用した人が多いものの、事態は楽観的にとらえられており、今のようなパンデミックに発展するとは考えられていませんでした。学会の会期が少し遅いタイミングであったなら、間違いなく学会は延期もしくは中止になっていたと思います。感染せずに出張から帰ってこられたのは今思えば幸運でした。

 2月のタイは乾季で雨は降らず、日中の最高気温は30度近くまで上昇します。湿気がなく、熱さはあまり気になりませんでした。また、敬虔な仏教徒が多いためかタイ人は非常に礼儀正しく親切で、治安の悪さは感じませんでした。食事は少しピリ辛で、辛い物が好きな私にはとても美味しく、食べ終わるころにはじんわりと発汗しています。出張初日、ある日本人の先生から、以前タイ出張した際に生野菜サラダを食べて下痢になったという経験談を聞き、生野菜は怖くて食べませんでした。

 学会はT.David(自己弁温存基部置換術の第一人者、カナダ トロント)やD.Adams(僧帽弁形成術の大家、アメリカ NY)など、世界のtop surgeonが講演に来る豪華なプログラムとなっており楽しみにしていましたが、コロナウイルス感染を危惧して、欧米からの講演はほとんどがキャンセルとなっていました。(当時は感染の主体がアジア圏であり欧米の感染報告がほとんどなく、欧米人はアジアに行くのを嫌がっていた。) 学会運営本部はプログラムの変更を余儀なくされ、対応に追われとても大変そうでした。キャンセルとなった発表枠を埋めるため、アジアからの参加者が発表を急遽依頼されており、同じ先生が何度も何度も講演していました。

 私はoral sessionで発表してまいりました。内容は90歳以上の超高齢者に対するTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)についてです。90歳以上の高齢者であっても、TAVIを行えば若年者と同様に心イベントや心臓死を回避でき、予後の延長に寄与できるという趣旨の発表です。会場からは大した質問はありませんでしたが、英語での質問が長くなると内容についていけなくなってしまう部分もあり、もっと英語力を鍛えなければと思いました。

 成績を気にするのは外科医の性(さが)であると思いますが、学会で他施設の発表を聴くと、どうしても自施設の成績と比べてしまいます。海外出張していつも思うことは日本(特に山口大学)の成績がずば抜けて良好ということです。各国の医療制度や死生観が違うため単純比較はできないと思いますが、先輩達が利他に徹して治療水準を高めてきた影響が大きいと思います。次世代の私たちは、現在の水準を落とすことなく技術を継承する大役を担っており、良い成績の発表をし続けるには、さらなる修練が必要と感じました。

 最終日は、他大学の先生方とチェンマイ観光に行きました。寺院を参拝したり、象の曲芸をみたり、首長族をみたり、とても楽しい時間を過ごしました。来年は我が国(奈良)で行われるとのことです。COVID-19のため、その時の医療がどうなっているか不透明ですが、開催されれば山口大学からのデータをアジアに向けて発表したいと思っています。




米国血管外科学会
溝口高弘

 2019年6月12日から15日までアメリカ合衆国のワシントンD.C.郊外で米国血管外科学会(Society of Vascular Surgery)が主催するVascular Annual Meeting(VAM)2019に参加させて頂きました。私は自身の投稿した演題が不採択となり、落胆しておりましたが、濱野教授にご高配を頂き、演題の採択された山口県立総合医療センターの竹内由利子先生とともにご同行させて頂きました。成田空港からワシントンD.C.までは約13時間で到着しました。日本との時差は13時間で、滞在中は蒸し暑くはありましたが、山口より幾分か涼しく感じました。

 会場はワシントンD.C.郊外で、ポトマック川という大きな河川沿いの街であるNational Harbor(メリーランド州)にあるGaylord National Resort & Convention Centerでした。リゾートホテルが併設された非常に大きなConvention centerでとても驚きました。竹内先生はInternational Poster Competitionという米国国外からの参加者のための優秀賞選考のあるポスターセッションで発表されました。発表内容は当科で行っているアクセスルートに片側の閉塞病変を合併する腹部大動脈瘤症例に対する分岐型ステントグラフト内挿術の治療成績についてです。これまでステントグラフト内挿術のアクセスルートとなる腸骨動脈に片側の慢性閉塞病変を合併する腹部大動脈瘤症例に対しては、開腹での修復術もしくは直線型ステントグラフト留置に非解剖学的バイパスを組み合わせた治療がされていましたが、前者は侵襲的であり、後者はグラフトの開存率などで課題がある状況でした。そこで当科では技術的には難易度の高い閉塞病変を合併する腹部大動脈瘤に対して血管内アプローチにより慢性閉塞病変を再疎通し、通常通りに分岐型ステントグラフトを留置して低侵襲に治療を行ってきました。今回はその成績をretrospectiveに検討した結果を発表されました。竹内先生の発表には多くの質問があり、我々の行っている取り組みは海外からも注目される内容であることを改めて認識しました。

 学会の合間には、ホワイトハウスやスミソニアン博物館などワシントンD.C.内の見学をしました。アメリカの首都を肌で感じることができ感激しました。

 今回、濱野教授をはじめ多くの先生方のご協力で学会出席の機会を頂き、誠にありがとうございました。今後の臨床・研究においてとてもいい刺激になりました。




トロント大学胸部外科留学からの帰朝報告
村上 順一

はじめに
 2017 年 9 月 1 日よりカナダ国オンタリオ州トロントにあります、University Health Network、Toronto General Hospital、 Latner Thoracic Surgery Laboratories、Marc de Perrot Lab.にPostdoctoral fellow として 2 年間留学をしました。 簡単ではありますが、留学に至った経緯、留学内容について報告します。

留学に至った経緯
 私は自治医科大学を 2004 年 3 月に卒業し、卒後9年間、義務年限を務めました。 学生時代はへき地医療を実践できるような総合診療医を目指していましたが、 山口県立中央病院(現山口県立総合医療センター)での研修の中で、外科医を目指すようになりました。 当時、同院長を務めていらっしゃいました江里健輔前教授に濱野公一教授をご紹介いただき、 卒後 3 年目(2006 年)に羊翔会に入会、社会人大学院に入学させていただきました。 2008 年に応用医工学修士課程、2010 年に同博士課程を無事に卒業できました。 外科医を志す前から海外留学を夢みていましたが、この大学院時代に濱野教授、上田和弘先生(現鹿児島大学所属)、 李先生(現長崎大学所属)から指導を賜る中で、基礎実験と臨床とが連動した研究にやり甲斐を見出し、 トランスレーショナル・リサーチ先進諸国への留学を意識しはじめました。 2013 年に義務年限が明け、第1外科に入局しました。 1 年間の各班ローテーション後に、呼吸器班に所属させていただきました。 入局当時は外科専門医も取得しておらず、ましてや呼吸器外科専門医は まだまだ先、、、と自分の中で焦燥感が高まっていたのを覚えています。 上田先生、田中俊樹先生、林雅太郎先生をはじめ医局員や同門会員皆様のおかげで、 2014 年に外科専門医、2016 年に呼吸器外科専門医を取得することができました。 2016 年初旬から濱野教授、上田先生、田中先生には海外留学の相談をしていましたが、 2017 年 1 月に田中先生を通じて海外留学の具体的な話が進んでいきました。本当に 突然、その日はやってきました。留学先からcurriculum vitae (CV)の提出を求められ、 数時間で cover letter、CV を完成させ、田中先生にチェックいただき、急いでメールを返信しました。 メール送信後、数時間で Okay with my pleasure, I am looking forward to working with you.と 返信が来たのを今でも鮮明に覚えています。その後、海外留学の手続きを進め、 2017 年 8 月下旬にカナダ、トロントに向けて出発しました。

留学環境
 トロントはオンタリオ州最大の都市かつ州都であり、カナダ国最大の都市であります。 オンタリオ湖岸の北西に位置し、人口はおよそ 260 万人です。 北米有数の世界都市であり、2010 年の都市圏人口は北米ではニューヨーク、ロサンゼルス、 シカゴに次ぐ 4 番目の大都市です(Wikipedia より引用)。 気候は北海道に近く、冬は雪が少ないですが、-20 から-30℃まで下がることもあり、 都心部特有の強いビル風により体感温度はさらに低くなります。 トロントは「移民の街」のため、街中を歩くと英語はもちろん、それ以外の言語も聞こえてきます。 文化的背景が異なる人々と日常的に接するためか、まずはお互い親切であることが基本マナーのようです。 トロントについた当初は何度となく、現地の方に助けられました。また全く見ず知らずの人も道端で声をかけてくれます。 「今日は天気がいいね」「どこから来たの?」「その服どこで売ってんの?」「このコーヒー美味しいよ。飲んでみる?」 「オススメのレストラン知らない?」など、人との距離はとても近いです。 また様々な国からの移民が多い故、様々な訛のある英語(もちろん自分を含む)を体験することができました。 個人的な感想としては南米の英語が聞き取りづらく、はじめはコーヒー1杯さえも注文できませんでした。

 トロント大学の歴史としては、1921 年にインスリンが発見され、その功績を称えてカナダドル紙幣にインスリンの薬瓶が描かれています。 また 1984 年には T リンパ細胞受容体が世界で初めてクローニングされ、免疫療法の根幹を支えています。 その附属病院である Toronto General Hospital はUniversity Health Network(UHN)に属し、 Princess Margaret Cancer Hospital、Toronto Western Hospital、Toronto Rehabilitation Institute などと共に医療集合体を形成しています。 私は Toronto General Hospital の胸部外科が運営する Latner Thoracic Surgery Laboratoriesの Marc de Perrot ラボに所属しました。 Latner Thoracic Surgery Laboratories は主に呼吸器外科医が主催する 7 つのラボで構成されています。 ラボを運営しているのは研究資金を獲得している staff surgeon 以上です。 Staff surgeon の下っ端は私と同年代でしたが、外科医としての給料は 5,000 万円から 7,000 万円くらいで、 研究費は年間 2,000 万から 3,000 万くらいあると聞きました。 同病院は 1983年に世界初の臨床肺移植を成功させた施設のため、 肺移植に関する基礎研究(マウス、ラット、ブタ)を行っているラボが多い印象でした。


Marc de Perrot ラボ
 Marc de Perrot はスイス出身の現在 51 歳、呼吸器外科医で、トロント大学の教授です。 一般呼吸器外科医として肺癌手術、肺移植を普段行っていますが、専門は悪性胸膜中皮腫、慢性血栓塞栓性肺高血圧症です。 日本では手術療法の頻度が少ない慢性血栓塞栓性肺高血圧症ですが、欧米では手術療法の頻度は高く、 症例は北米から集まり、週 1 または 2 例の手術が行われていました。悪性胸膜中皮腫も週1例の手術が行われていました。

 Marc de Perrot ラボのメンバーは、Marc de Perrot、スタッフ 2 名(共に中国人[医師])、ラボ マネージャー1 名(中国人)、ポストドク 5 名(日本人2 名、台湾人 1 名(呼吸器外科医)、中国人 1 名(医師)、 カナダ人1名(研究者)、1 名の大学院生(カナダ人)、数名の学生(summer student[山口大学でいう自己開発コース]、 医学部入学のための推薦状取得目的)で構成されていました。 悪性胸膜中皮腫または慢性血栓塞栓性肺高血圧症に関する動物研究、臨床サンプル研究を行なっています。 月曜日から金曜日までは朝 8 時 30 分から 17 時までが dutyでした。 毎週水曜日にラボミーティングがあり、研究の進歩状況、実験プロトコールについてプレゼンテーションを行います。 時間はたっぷりあるため、私の研究だけで毎週 30 分程度はディスカッションをしていました。 さらに週 1 回 Latner Thoracic Surgery Laboratories のランチセミナーがあり、 各ラボの研究者が持ち回りで研究内容を発表します。 1 年に 1 回担当が回って来ました。発表時間は 45〜60 分間もあり、聴講者は約 80 名程度と多く、 発表途中でも質問がどんどん飛んでくるため、今まで経験がないくらいに緊張しました。 また Latner Thoracic Surgery Laboratories では肺移植に関する臨床研究を行なっており、3 ヶ月に 1 回(1週間)は 肺移植サンプル収集の on call が回ってきました。 2 日に 1 回は呼ばれ、1 回呼ばれると肺移植開始から終了までサンプルを収集しないといけません。 夕方から夜中に呼ばれることが多く、毎回ストレスな1週間でしたが、 普段見ることのできない肺移植手術(clamshell 開胸)を見学できたのはとても勉強になりました。

日本人ラボメンバー
 私の所属する Marc de Perrot ラボには九州大学第 2 外科から呼吸器外科医が 1 名、留学されていました。 Toronto General Hospital は肺移植が年間 200 例以上行われており、Latner Thoracic Surgery Laboratories には 日本で肺移植を行なっている、または肺移植の準備をしている施設からの留学生(京都大学、東北大学、東京大学、大阪大学、 岡山大学、九州大学、慶應大学、熊本大学、北海道大学など、常時 15〜20 名は在籍していました)が多かったです。 その多くは 30〜35 歳で、2 年半から 3 年半で基礎研究の結果を出し、clinical fellow として 肺移植(senior fellow が術者)の研鑽を積んで帰国されていました。 また Toronto General Hospitalの胸部外科には日本人の安福和弘先生が教授の一人として在任されており、 多くの日本人(呼吸器外科医、呼吸器内科医や医療技術者)が所属されていました。 九州大学第 2 外科の先生をはじめ、多くの日本人ラボメンバーには、研究は勿論、生活に関しても大変お世話になりました。


研究内容について
 Marc de Perrot は悪性胸膜中皮腫に対して術前放射線療法(強度変調放射線治療[IMRT])後に胸膜肺全摘出術を行い、 良好な成績(2 年生存率の改善、術後無再発期間の延長)を得ました。 私はこの術前放射線療法の免疫的効果について研究を行いました。 術前放射線治療は当初は病勢コントロールと切除マージンの確保を目的としていたようでしたが、 様々な研究報告からリンパ球をはじめとする免疫細胞を介した免疫賦活効果があることがわかってきました。 まず、私は悪性胸膜中皮腫のマウス皮下腫瘍モデルまたは胸膜播種モデルを用いて、 放射線治療後の照射腫瘍への移入細胞をフローサイトメトリーで解析しました。 照射後は抗腫瘍効果のあるCD8+T 細胞が腫瘍内へ移入することがわかりました。 それに続いて免疫抑制性の制御性 T 細胞(Treg)が腫瘍内に多く移入し、CD8+T 細胞の抗腫瘍効果を減弱させることがわかりました。 そこで IL-15 併用投与で CD8+T 細胞を増殖、機能向上を促し、大量の CD8+T 細胞の腫瘍内移入を促進させ、 さらに DTA-1(抗 GITR 抗体)併用投与で、腫瘍内に移入する Treg を選択的に消去させることに成功しました。 これら IL-15/DTA-1 併用投与により、放射線治療の免疫効果を増強させることを証明しました。 さらに悪性胸膜中皮腫の微小転移モデルを独自に作成し、微小転移病変に対する IL-15、DTA-1 併用放射線治療における abscopal effect (非照射部位の抗腫瘍効果)の増強効果を証明しました。 現在、論文作成中で、近日、投稿予定です。私の留学が急であったため、本当は research fellow の空きがなく、 留学当初は私の研究課題はない状態でした。しかし、臨床における現課題(悪性胸膜中皮腫に対する術前放射線治療後の手術療法は無再発生存期間の 延長が改善するものの、術後局所再発や遠隔転移により再発率は高いまま、完治症例は増加していないこと)を解決できるような研究プロトコールを自ら計画し、仮説を証明することができました。 まだ論文がアクセプトされていませんが、これらの成果を 2 年間で出せたことは自信になります。 現在、私が動物実験を行ったプロトコールを参考に術前放射線免疫療法後の手術療法に関する臨床研究が開始される予定のようです。

生活、休日の過ごし方
 私の職場はトロントの中心部にありました。肺移植サンプルの on call があるため、 職場から徒歩 5 分程度のコンドミニアムに住んでいました。トロントは移民が増えていて、空き賃貸物件は少なく、家賃が年々上昇している状態でした。 私は妻と 2 人で渡加しましたが、家賃約 20 万円の 1DK に住んでいました。 学生並みの狭い部屋でしたが、80 階建てコンドミニアムの 27 階に住んでいました。 おそらく今後このような高層階に住むことはないと思います。 治安は日本並みとまでは言えませんが、一般人の銃所持が許可されていないこともあり、 一般に「外国」として想像されるよりもかなり良く、世界で最も住みやすい都市として毎年の様に上位に位置づけられており、 日本からの留学生にとっても非常に住みやすい環境です。 夜中まで飲み歩いても危険な目には合いませんでしたし、そのような話は聞きませんでした。 休日は車を持っていななかったので、近くで過ごすことが多かったです。 公園やトロント島へ遊びに行ったり、近所のイベントに参加したり、夏は家のベランダやパティオでお酒や食事を満喫しました。 また日本人家族と共に自宅パーティーやキャンプを楽しみました。トロントは MLB の Toronto Blue Jays、NBA の Toronto Raptors の本拠地です。 ダルビッシュ有投手、田中将大投手や大谷翔平選手のプレーも観戦することができました。 さらに NBA は観戦チケットが高かったですが、スーパープレーに熱狂し、研究の辛さを一瞬忘れさせてくれました。 2018-19 年シーズンは Toronto Raptors が champion となり、NBA の優勝パレードを間近で見ることができました。 これは NBA ファンには自慢できます。 また海外留学の醍醐味といえば、週末やholiday season の旅行です。 カナダには、ナイアガラの滝やオーロラが見えるイエローナイフ、 世界遺産のカナディアンロッキーなど、観光スポットがたくさんあり、さらにはニューヨークやフロリダ、キューバ、 メキシコなど一生に一度は行きたい観光地もトロントから数時間で行くことが可能です。 私もオタワ、モントリオール、バンフ(カルガリー、カナディアンロッキー)、ニューヨーク、 フロリダ(ディズニーワールド、ユニバーサルスタジオ、ケネディー宇宙センター)やメキシコ(カンクン)に旅行に出かけ、いい思い出を作ることができました。

おわりに
 最後になりましたが、本留学に際して留学を快くお許しいただき、かつ多大なるサポートをしていただいた濱野教授、 上田先生と田中先生をはじめ、第1外科医局員の皆様に心よりお礼を申し上げます。




SAGES 2019 報告
原田 栄二郎

 2019 年 4 月 3 日~6 日にアメリカ・ボルティモアで開催された米国消化管内視鏡外科学会(Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons: SAGES)に参加しました。SAGES は消化器一般外科を対象領域としていますが、 各領域を専門学的に造詣を深めるというよりも、一般外科医を対象に総論的な知識を共有するといった意味合いが強い学会です。 勿論、上部・下部消化管の良性・悪性疾患の演題もありますが、腹腔鏡での胆嚢摘出術、 ヘルニア手術や肥満手術といったいわゆる general surgery 関連の演題が多い学会です。 留学していた2015 年に参加して以来、2 度目の参加となりました。

 2018 年 9 月下旬が演題締め切りで、poster presentation、video presentation、oral presentation の登録カテゴリーがありますが、 実はoral presentation はほぼ要望演題であり、一般からの採択はほぼ不可能ですので、video presentation を選びました。 「Tips for SingleIncision Laparoscopic Cholecystectomy」と題して、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術における鉗子の干渉 を回避する工夫について演題登録を行うこととしました。提出方法はナレーション付きのビデオ提出なので、 映像編集は容易でしたがナレーションは苦労しました。 2019 年 1 月上旬に採択通知が届いてから、子供達が通っている英会話教室の先生に御願いし、 3 月下旬まで毎週土曜日に発表原稿・スライド・発表態度を指導して貰いました。 原稿は暗記できたのですが、先生からは、「もっと感情を込めろ。発言に抑揚がない。」などと日本人が指摘され がちな点を見事に指摘されながら本番に臨みました。

 抄録アプリをダウンロードして確認すると、 video presentation の解説には、「The presentations were peer-reviewed by members of various SAGES committees and represent the highest-scoring abstracts submitted under this topic. 」 と記載されており、提出したビデオがある程度評価されたと理解し、非常に嬉しく思いました。 本番は、4 日早朝のセッションで、何故か周りは肝胆膵ロボット手術の演題ばかりで単孔式腹腔鏡手術は 私だけだったのでいささか拍子抜けしました。 会場からの質問はなく、司会者から臍を切開した後の腹壁瘢痕ヘルニアが米国では 10%あり、 大きな問題だと思うのだがと質問され、その質問を日本人の私にされても困るよと思いつつ、 私の施設では 1%未満であるが患者の体格・肥満度が大きく違うので米国でのその数値は問題ですねと回答し、発表は終了しました。

 5 日には、Hans-on-Lab で、cadaver を用いた腹腔鏡下結腸体内吻合術に参加しました。 事前登録制で約 13 万円の出費でしたが、前半 1 時間が講義で、後半 2 時間が実技と内容は濃いものでした。 また、参加者が少なかったようで、1 献体に指導者 1 人・参加者 1 人の構成で、自分が試したいプランを存分にさせて頂くことができました。 ここでの経験をもとに現在当科でも腹腔鏡下結腸体内吻合術を導入しております。

 留学中にお世話になった Dr. Horacio Asbun は、この SAGES の理事を務めており、 学会に参加していることが分かっていたので、とあるセッションで出待ちし、挨拶をしました。 彼は Mayo Clinic Florida から Miami Cancer Institute へ移っており、相変わらず多忙のようです。

 学会を堪能しつつ、観光も堪能させて頂きました。 5日にはMLBのボルティモア・オリオールズがニューヨーク・ヤンキースを迎える開幕日でしたので、事前にチケットを購入し、観覧しました。 田中将大投手は3日前のオープン戦で登板していたのでこの日観ることはできませんでしたが、史上最速169km/hの球速を誇るアロルディス・チャップマンを観ることができたので満足しました。

 帰国前日は、60km 離れたワシントンへ移動し、スミソニアン博物館、ホワイトハウス、記念塔、リンカーン記念堂を駆け足で巡りました。 ちょうど桜祭りの時期であり、日本人としては感慨深く感じました。 留学から帰国し、4 年ぶりの米国かつ海外出張でしたが、様々な影響を受けるこの上ない機会だと改めて感じました。 このような貴重な機会を頂き、濱野教授ならびに諸先生方に心より感謝申し上げます。