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患者様へ

呼吸器外科

当科の特色

呼吸器疾患、縦隔疾患、胸壁疾患に対する手術を行っています。とくに肺癌や縦隔腫瘍などに対する胸腔鏡下手術、進行肺癌に対する集学的治療(抗癌剤治療、放射線治療、手術を組み合わせて行う治療)に力を入れています。
治療はガイドラインに沿って行われますが、実際にそれぞれの患者様の状況に応じて治療方針を決定するには、画一的な知識だけでなく総合的な知識や経験が必要です。私たちが目指す「最高の治療」とは「最高の手術」だけを意味するものではありません。正確な手術前診断、合併症の把握、手術適応の決定と十分な手術前準備、そして的確な手術後管理のすべてが揃って「最高の治療」が行えると考えています。
当科の最大の利点は、幅広く、かつより専門的な診療が行えることです。総合外科である当科には、私たち呼吸器外科とともに心臓外科・血管外科・消化器外科・小児外科が含まれており、手術前の全体カンファレンスで厳密な適応決定と術前・術中・術後管理の方針が話し合われます。それぞれのチームの視点から、治療方針のみならず患者様の合併症などの問題点を検討することで、本当に必要な手術と安全な術前・術後管理を行うことができています。手術内容によっては各診療グループが相互に協力しながら手術を行っています。
日本呼吸器外科学会は、呼吸器疾患の手術を専門的に行う呼吸器外科専門医・呼吸器外科医による呼吸器外科手術を推奨しています。なぜなら、手術数が多いほど手術成績が良好で合併症が少ないことが知られているからです。当科では多くの呼吸器手術経験を有し、かつ呼吸器外科領域以外の疾患に対する手術・治療の研鑽を十分積んでいる呼吸外科専門医・呼吸器外科医が治療を担当しています。
さらに、術中・術後の合併症を防ぐためには、麻酔科医、集中治療室との連携も十分である必要があります。当院では、経験豊富な麻酔科医が全身麻酔を担当し、集中治療室においても当科医師と集中治療専門医が協力して治療を担当します。また、難しい合併症のある患者様には、それぞれの疾患に対して異なる科の専門医が治療を行い、安全に周術期を乗り切るための体制ができています。
2015年7月に山口大学医学部に呼吸器・感染症内科学講座が開講し、呼吸器疾患に対する検査・治療が当院で全て行える体制が整いました。現在は呼吸器外科・呼吸器内科・放射線科・放射線治療科と合同で患者様の治療方針を検討し、検査スケジュールや治療が効率よく速やかに行える体制となっています。手術・抗癌剤治療・放射線治療を組み合わせて行う集学的治療も各科が協力して行っています。

当科の診療方針

肺癌と診断されたとき、肺癌の治療だけを考えれば良い訳ではありません。肺癌の治療(手術)自体が上手く行えても、手術の合併症が発生したり元々お持ちの合併症が悪化したりすることで生活の質を落とすということは、出来るだけ避けなければなりません。
高齢化社会、または生活習慣の変化から、私たちの施設でも様々な併存疾患をお持ちの患者様が増えてきました。特に原発性肺癌の重要な危険因子である喫煙は動脈硬化の危険因子でもあり、心血管系の合併症(心筋梗塞、動脈瘤、腎不全など)をお持ちの患者様が多くなってきています。喫煙は肺気腫の原因でもあり、手術に支障を来すほどの肺機能低下を認める患者様も増えてきました。つまり同じ病気でも、患者様ひとりひとりの状況は全く異なっているわけです。
患者様の状況を把握して必要な準備と治療を行うことが本当の治療であり、安全で質の高い治療を提供できると私たちは考えています。
当科は呼吸器外科専門医合同委員会基幹施設です
当科には呼吸器外科専門医が2名常勤しており、山口県内の呼吸器外科基幹施設となっています。

呼吸器外科グループの特徴

体に優しい治療を -手術の低侵襲化-
手術の低侵襲化とは、【1】手術創の縮小、【2】切除範囲の縮小に分けられます。

【1】手術創の縮小
<胸腔鏡下手術>
以前は、肺の手術といえば側胸部を横断するような30 cmにも及ぶ傷で手術を行っていました。それによる機能障害や痛みが、術後の生活の質を下げる主な原因になっていました。近年胸腔鏡という筒型のビデオカメラが開発され、小さい傷で胸の中をテレビモニターに映しながら手術を行う「胸腔鏡下手術」が開発・普及してきました。当科での胸腔鏡下手術の歴史は古く、本邦に導入された初期から積極的に行ってきました。1993年からは原発性肺癌に対する胸腔鏡下手術を導入し、現在は肺手術のほとんどに胸腔鏡手術を行っています。傷の大きさもより小さくなり、術後の痛みや機能障害の軽減、美容的にも有効であることが示されています。多くの患者様が手術後4-7日で退院されています。

<完全胸腔鏡下肺癌手術(肺葉切除術、肺区域切除術)の導入>

胸腔鏡下肺癌手術(肺葉切除術、肺区域切除術)といっても、すべての施設において同じ方法で行われている訳ではありません。大きな傷(10 cm)を置いて、胸腔鏡と直視(直に目で見る通常の手術)を併用した手術が胸腔鏡下手術といわれることをしばしば耳にします。胸腔鏡下手術の主な目的は、傷の縮小化による痛みと体へのストレスを軽減することであり、大きな傷を併用する方法は胸腔鏡下手術本来の利点を損なっているとも言えます。当科では2007年秋から、3-4カ所の小さい傷(2-3cm)のみで行う真の胸腔鏡下手術(完全胸腔鏡下手術)を導入しています。特別な手技を要する手術、高度の胸腔内癒着、術前抗癌剤放射線治療などの場合を除き、左右・部位に関わらず、この方法で手術を行っています。手術中の合併症発生頻度は以前と同様に非常に低く、安全性は十分確保できています。また、痛みが少なく、ほとんどの患者様で術翌日に病棟内歩行が十分に行えるほど回復も早いことから、より体に優しい手術が行えていると自負しております。

〈より安全な胸腔鏡下手術のために-4Kシステムの導入-〉
当科では、ほぼ全ての肺手術が完全胸腔鏡下に行われています。この手術では、術者はテレビモニターを見ながら手術を行うため、画像の良し悪しが安全な手術の鍵を握ると言っても過言ではありません。当科では、安全で質の高い手術を行うため、2008年からハイビジョン・システムを、2019年から4Kシステムを導入しています。4Kカメラと4Kモニターを使用することから、非常に鮮明な画像のもとに手術を行うことができます。また、拡大した画像で手術を行えることから、より繊細で確実な手術が可能になりました


〈ロボット支援胸腔鏡下手術〉
当科では肺癌に対するロボット支援胸腔鏡下手術を、保険収載前の2014年から導入しておりました(倫理委員会承認済み)。2018年4月にロボット支援肺癌手術(肺葉切除術)が保険収載されたことから、現在は比較的早期と考えられる肺癌の患者様にロボット支援胸腔鏡下手術を行っています。また、縦隔腫瘍に対するロボット支援手術は非常に有用であることから、2019年からロボット支援縦隔腫瘍手術を導入しています。


【2】切除範囲の縮小
肺は肝臓のように大きく再生する臓器ではありません。したがって、切除により失われた機能は基本的に回復しません。肺癌に対する現時点での標準術式は肺葉以上の切除+肺門・縦隔リンパ節郭清ですが、本邦では癌の大きさが2 cm以下の場合には切除範囲を縮小しても良好な成績が得られることが示されてきました。現在日本での臨床研究(JCOG0802/WJOG4607L)が行われています。当科でも腫瘍径が2 cm以下で、かつリンパ節転移のない癌に対しては、積極的に切除範囲の縮小を行っており、良好な成績を得ています。切除範囲を縮小する手術(区域切除)においても、完全胸腔鏡下手術を行っています。

進行肺癌に対する取り組み これまでは進行肺癌に対する手術の成績は十分とは言えず、他の治療(抗癌剤、放射線治療)と同じ程度の治療成績でしたが、近年になり抗癌剤治療や放射線治療を行った後に手術を行うことで、かなり良好な成績が報告されています。当科でもリンパ節転移や周囲臓器浸潤を伴う進行肺癌に対して、先に抗癌剤治療と放射線治療を行い、治療効果が得られた患者様には積極的に根治手術を行っています。これまでには、大動脈へ浸潤した肺癌に対して大動脈合併切除術+人工血管再建術を行い、5年以上再発なく元気にお過ごしの患者様もいらっしゃいます。抗癌剤と放射線治療の後に手術が行われることから治療に関する合併症が危惧されますが、術後の経過は通常の手術とほぼ同等で術後の生存率も非常に良好であることが示されています。

術後合併症減少への工夫 肺手術後の合併症で最も問題になるのが肺炎などの肺合併症です。この予防には早期離床が有効ですが、手術後に挿入されている胸腔ドレーン(チューブ)が傷の痛みの原因となり早期離床を妨げる原因となっていました。胸腔ドレーンを早期に抜去するには、肺瘻(肺からの空気漏れ)を防ぐ必要があります。私たちはオリジナルの肺瘻閉鎖術を開発し、9割以上の患者様で手術直後から肺瘻を認めなくなりました。手術後の胸腔ドレーン留置期間は約1日と、とても短い留置期間です。この方法を導入してから、ほとんどの患者様が術翌日には酸素吸入を行うことなく病棟内歩行が可能となりました。また、手術に起因する術後合併症を起こすことは非常に少なくなりました。

肺機能評価 肺気腫を合併している場合、低肺機能のために手術の適応がないと判断される場合があります。しかしながら、切除予定部位が肺気腫の主な病変であった場合、手術により肺機能が改善することもあります。私たちは、CTにより実際に機能している肺の容量を計測し、手術によって切除される肺容量と残存する肺容量を計測することによって、より正確な術後残存肺機能の予測が可能となりました。また、手術前から肺気腫やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に対する治療(吸入薬)を開始することで、肺機能を改善させてから手術を行う工夫も行っています。
他院で低肺機能のため手術が困難と判断された患者様でも、これらの方法を用いて評価し手術可能と判断され、実際に術後合併症なく退院される方が増えてきています。

世界的な評価を得ています 新しい治療や手術手技を用いていても、それが本当に妥当であるかを知るには、国際的な評価が必要です。当科で行っている手術手技(肺瘻閉鎖術の有効性、手術器具の新しい使用法など)、術後リハビリスケジュール(胸腔ドレーン留置期間の短縮、早期離床の有用性など)、術前検査(正確な肺機能評価法など)は、海外の多くの学術誌に掲載されており、世界的な評価を得ています。

対象疾患:肺・縦隔などの胸部疾患を専門的に診療しています

肺癌(原発性肺癌、転移性肺癌)
肺良性腫瘍
気管腫瘍
気胸
縦隔腫瘍
重症筋無力症
悪性胸膜中皮腫
漏斗胸(金属バーを用いた低侵襲手術を行っています)
炎症性肺疾患(肺分画症、肺アスペルギルス症、膿胸など)
嚢胞性肺疾患(肺気腫、気腫性嚢胞、気管支原性嚢胞など)

呼吸器外科診療について

1.原発性肺癌

    臨床病期でIA-IIIA期の一部は、手術のよい適応となります。手術は肺動脈形成や気管支形成、胸壁合併切除などの複雑な手技を用いる場合を除き、積極的に胸腔鏡下手術を行っています。また、画像上比較的早期の肺癌と考えられる場合には、ロボット支援胸腔鏡下手術を行っています。縦隔リンパ節転移や隣接臓器浸潤を認める場合などは、術前治療(抗癌剤+放射線治療)を積極的に行い、治療効果が得られた場合や変化がなかった場合は、積極的に手術を行っています。

    2.転移性肺癌
    肺以外の癌が肺へ転移を起こした場合に、肺の転移病変を切除することで良好な治療効果が期待できる場合があります(大腸癌など)。多くは肺の辺縁に転移を起こすため、肺を部分的に(くさび形に)切除しますが、転移する部位や転移病変の大きさによっては部分切除術が困難な場合もあります。無理な切除は腫瘍からの十分な距離が確保されず再発の危険性が増加するだけではなく、切除後に残った肺の変形が強くてうまく機能しないこともあります。部分切除術が困難な場合はできるだけ正常肺を温存する目的で区域切除術が行われ、それでも困難な場合は肺葉切除術が行われています。このように、転移性肺腫瘍においても、腫瘍の部位や大きさで手術術式が異なります。また区域切除術は煩雑な手技を要するため呼吸器外科を専門とする医師のいる施設での手術が望まれます。したがって、転移性肺腫瘍と診断された場合は、手術の適応や手術方法決定のために呼吸器外科専門施設への受診をお勧めします。
    当院では、部分切除術が困難な場合は積極的に区域切除術を行っており、ほとんどの場合はこれらの手術を患者様の負担の少ない完全胸腔鏡下手術で行っています。原発巣に関わらず、切除可能な場所と転移数であり、その他の部位に再発や転移を認めない場合には、積極的に手術を行っています。

    3.縦隔腫瘍
    縦隔腫瘍には良性と悪性のものがあります。良性腫瘍に関しては、可能な限りロボット支援、または胸腔鏡手術を行っています。ロボット支援・胸腔鏡手術の利点は、胸骨を縦断して切離する必要がないために術後の胸骨骨髄炎や縦隔洞炎などの危険性がなく、また術後放射線治療が必要な場合にも胸骨の治癒を待つ必要がないため、迅速に治療を開始できることです。美容的にも優れており、胸骨を切離する手術を行うと首から前胸部にかけての縦切開の傷が残り目立つことも多いですが、ロボット支援・胸腔鏡手術は側胸部に傷が入るので傷が目立ちにくく、とくに若年者や女性にも受け入れやすい手術です。悪性腫瘍の場合は、手術だけでなく抗癌剤治療、放射線治療を組み合わせた集学的治療を行います。

    4.重症筋無力症
    当院神経内科と相談の上、全身型(原則として65歳以下、抗アセチルコリン受容体抗体陽性)の重症筋無力症症例に拡大胸腺摘出術を行います。胸腺腫を合併していない場合は、ロボット支援下、もしくは胸腔鏡下に拡大胸腺摘出術も行っています。

    5.気胸
    内科的治療の再発率が非常に高いことから、初回発症の気胸でも胸部CTで明らかな嚢胞性変化があれば、積極的に完全胸腔鏡下手術を行っています。手術後2-3日で退院可能です。また、難治性気胸に対しては、手術のみではなく呼吸器内科と協力して気管支塞栓術を併施することやカテーテルを用いて閉鎖する方法、また胸膜癒着術なども行っています。

    6.悪性胸膜中皮腫
    胸膜中皮腫の確定診断には、胸腔鏡下胸膜生検が有効です。当科では、診断のための胸腔鏡下手術の後に、適応があれば胸膜切除剥皮術、胸膜肺全摘術を行います。術後は、当院の集中治療部で呼吸・循環管理を慎重に行うことで、より安全に周術期治療を行うことができます。術後は当院呼吸器内科、放射線治療科と相談の上、集学的治療を行います。

    7.漏斗胸
    当科では、小児外科と協力して漏斗胸の手術も積極的に行っています。Nuss法という金属製のバーを用いた美容に優れた手術を中心に、状態に応じた手術を行います。胸腔鏡を併施するため、安全な手術が可能です。

    《当科の手術例》
    2022年の手術件数は205件で、うち肺癌は111件でした。



    《新患紹介》

    田中俊樹(月曜日午前・木曜日午前)
    山口大学大学院器官病態外科・呼吸器外科
    755-8505 山口県宇部市南小串1-1-1
    TEL:0836-22-2261(器官病態外科研究室)
    TEL:0836-22-2510(山口大学医学部附属病院外科外来)
    FAX:0836-22-2423
    *お急ぎの場合は、上記外来日以外でも対応いたします。直接研究室、もしくは外来へお電話ください。