研究内容の紹介

ウイルス感染における宿主細胞反応の解析

 当研究室では、牛のイバラキ病の原因となるイバラキウイルス(IBAV)などのウイルスを用いて、研究を行っています。イバラキウイルスは、レオウイルス科オルビウイルス属に属する節足動物媒介性2本鎖RNAウイルスであり、牛や水牛に対して病原性を持ちます。主にヌカカによって媒介され、日本では関東以南で夏〜秋にかけてIBAV感染の危険性が高まります。本研究室では、ウイルス感染に対する宿主細胞反応とその意義、ウイルス感染機構および病原性発現機構の理解に向けて研究しています。

栄養代謝を司る細胞内シグナルの制御機構の解明

 近年、栄養素はエネルギーや体の構成成分となるだけではなく、各種の細胞機能を制御するシグナル分子として働くことが分かってきました。栄養素の中でもアミノ酸は、細胞内シグナル伝達経路に働きかけることで「アミノ酸→タンパク質」の生合成を活性化し、逆に「タンパク質→アミノ酸」の分解装置として働くオートファジーを強く抑制します。私たちはアミノ酸などの栄養素が細胞に及ぼす影響に注目して研究しています。

メンブレントラフィックの生理的役割の解明

 エンドサイトーシス経路、分泌経路、オートファジー経路など、細胞膜や細胞内膜の動きを伴うメンブレントラフィックと呼ばれる細胞内輸送機構の生理的役割を解明するため、メンブレントラフィックと、上記の栄養代謝シグナル活性・ウイルス感染・急性期タンパク質分泌などとの関係を調べています。 

動物の遺伝子変異・遺伝子発現量変化の解析

 ウシやイヌなどのゲノムDNA配列データを、次世代シーケンサーを用いて取得し、既知の遺伝病関連バリアント(変異)を検出することで、遺伝病発生のリスクを抑えることができます。また、ゲノム・トランスクリプトームを解析して、新しい研究ターゲットを探索しています。

CRISPR-Cas9を用いたゲノムワイドスクリーニング

 CRISPR-Cas9スクリーニング実験系を活用し、様々な細胞内現象の新規関連遺伝子を探索しています。この実験系においては、培養細胞を用いて、CRISPR-Cas9システムによる遺伝子ノックアウトを、すべての遺伝子に対して行います。その後、例えば培養細胞の増殖を抑制する何らかのストレスを加えたときに、そのストレスに耐性を獲得した遺伝子ノックアウト細胞のみが選択的に増えてくることが期待されます。その増えてきた細胞を回収して、次世代シーケンサーを用いて定量・解析することで、新規の関連遺伝子を発見することが期待されます。

急性期タンパク質のバイオマーカーとしての応用

  急性期タンパク質は、炎症の急性期に血中濃度が増加または減少するタンパク質の総称です。炎症反応を検出するためのバイオマーカーとして利用されますが、炎症反応全般を広くカバーするだけではなく、疾患特異性と検出感度に優れたバイオマーカーの開発が望まれます。現在、炎症時に糖鎖修飾パターンの変化が見られるα1-酸性糖タンパク質(α1-acid glycoprotein, AGP)と、細菌感染の特異的マーカーとして注目されるプロカルシトニンを研究対象としています。