言葉と向き合い、仲間と共に言葉がもつ価値を見出そうとする子ども
「自分を見つけてもらった気がする。」国語の授業で自分の考えをうまく言葉にできなかった子どもが、対話の中でぴったりくる言葉を見つけた時、口にした言葉である。言葉を得るということは、自分を理解することであり、同時に他者を理解することでもある。言葉との出会いが、子どもの思考や感覚を豊かにし、人生でかけがえのない財産となることは言うまでもない。多くの言葉と出会い、言葉について考える時間を生み出すところに国語教室の使命があると、我々は強く認識している。
子どもが教材の言葉に出会うことで、自然と言葉に対する考えが深まるわけではない。教材の言葉が「なぜそのように書かれているのか」という表現者の意図や、自分や他者はどのように考えているのかについて、教材の言葉や自他に耳を傾け、言葉にしようとするからこそ、自分の考えに見合う言葉が見つかった時、子どもの中に新たな言葉が生まれ、思いが形になる喜びを感じることができる。我々は12年間の学びを通して、他者との対話や教材の言葉の吟味を繰り返しながら、多様な言葉に出会い、子どもが自分を表現する言葉を得ていく機会を生み出したいと考えている。そこで、「自己を表現する言葉を得ていく」ことを研究主題にかかげ、子どもが言葉を得ていくために教師がどのような役割を果たさなければならないか、明らかにしたいと考える。「自己を表現する言葉」は、言葉の働きについて吟味したくなるような「教材や問いの設定」、自分の考えと他者の考えの共通点や相違点をもとに、認識を深めるための「問い返し」、自分の認識の変容を自らの言葉で表現する「振り返り」の3つが鍵となると考えている。こうした体験を積み重ねていくことで、子どもは新たな言葉を得ていくことができ、言葉によって自己を再構築していくことができる。教師の役割が子どもの言葉との出会いを左右するということを念頭に置きながら、その内実を明らかにし、研究を進めてきた。今回は実践の分析を中心に、成果と課題を明らかにしていきたい。