脳腫瘍

脳腫瘍診療スタッフ

  • 鈴木倫保 (教授、日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医)
  • 出口 誠  (助教、日本脳神経外科学会専門医)
  • 五島久陽 (助教、日本脳神経外科学会専門医)
  • 梶原浩司 (非常勤、日本脳神経外科学会専門医)

I. 脳腫瘍とは?

脳腫瘍とは、脳の病気のひとつで、頭蓋内、つまり頭の骨から中に出来る組織に発生する出来物の事を意味します。すなわち、脳細胞だけでなく、硬膜・クモ膜といった髄膜の一種、頭蓋内の血管や末梢神経、その他の頭蓋内に存在するあらゆる組織から発生するものも含まれます。発生頻度は毎年約10万人に10〜12人の割合であるとされています。未だに具体的な発生原因は分からないのが現状です。

脳腫瘍といえば、「治らないのではないか?」とお思いの方もおられるかもしれませんが、私たち山口大学脳神経外科では、一人でも多くの方を救うべく、日々研鑽を重ねております。

一口に脳腫瘍といってもその種類は有に100種類を超え、それぞれ様々な特徴があります。悪性から良性、抗癌剤が著効するもの、放射線がよく効くもの、など様々です。一つ一つの詳しい説明はこちら(http://square.umin.ac.jp/neuroinf/)をご覧下さい。

II.治療について

山口大学脳神経外科では、現在年間60例前後(表1)の脳腫瘍の手術を手がけており、その治療法についても様々な方法を駆使して、安全かつ正確な腫瘍の摘出を心がけています。
また抗癌剤を使った化学療法、放射線療法(ライナック)、放射線手術療法(サイバーナイフ)によって、術前・術後の補助療法も積極的に進めており、良好な成績を得ています(表2)。

1) 最新型手術用顕微鏡
肉眼では手術不可能な非常に小さい病変もこの顕微鏡により、安全に手術可能です。
2) ナビゲーションシステム
脳腫瘍の手術において、特に脳の深いところでは病変部と正常脳の鑑別が困難な場合があり、誤って正常脳を傷つけてしまう可能性があります。このシステムは「今、脳のどの部分を手術しているのか」という情報をリアルタイムで画面上に表示する事が出来ます。このナビゲーションを使った手術はすでに400例を超えています。
ナビゲーションシステム
3) SEP, MEP,VEP,ABRなどのモニタリングシステム
顕微鏡やナビゲーションだけでは、脳の中の手足を動かす運動線維や物を見たり聞いたりする情報を伝える線維を見極める事は不可能です。そこで私たちは手術中に電気刺激によって大事な神経線維を同定し回避しながら手術を行い、術後の手足の麻痺や障害を防いでいます。
SEP, MEP,VEP,ABRなどのモニタリングシステム
4) 覚醒下手術療法
脳には言葉を理解したり、話したりするのにとても大事な「言語中枢」というものがあります。この近くに出来た腫瘍の場合、手術によって言葉の障害が出る「失語症」という症状が出ることがあります。そこで私たちは手術中に患者さんに目を覚まして頂き、会話や簡単な質問を行いながら言語中枢の場所を同定して、言葉の障害が出ないようにより安全に、より的確に腫瘍の摘出を行っています。
覚醒下手術療法
手術中に脳の表面の言語領域を電気刺激によりマッピングを行ったものです。
赤と黄色が言語領域を表しています。手術はこの部分を避けて行い、術後の言語機能の温存を図ります。
5) 超音波メス
非常に硬い腫瘍の時に使われます。しかしながら大事な脳の血管を傷つける事はほとんどないという優れものです。
6) 神経内視鏡治療
近年、胃カメラ等と同様に脳手術の分野でも内視鏡が使われるようになりました。内視鏡の登場により、これまでは頭を大きく開けて手術を行い、組織診断を行っていたものが、約3cmほどの傷で腫瘍の一部を摘出し、診断できるようになりました。患者さんの負担も大変軽く済むようになっています。
神経内視鏡治療
7) 化学療法
脳腫瘍に限らず、化学療法は効果が期待できる半面、副作用も強く、これにより状態が悪化する場合もあります。私たちは日本・世界で標準的な化学療法を豊富な経験を元により安全かつ有効な治療を心がけています。具体的には、悪性神経膠腫、胚細胞性腫瘍、悪性リンパ腫に対して主に行われます。また平成18年度より、悪性神経膠腫に対するテモダールという抗腫瘍剤が保健適応となり、現在では標準的な治療法となりつつあります。
8) 放射線療法
現在山口大学では放射線科と協力して、主に神経膠腫、悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍に対してライナックによる放射線治療を行っております。また転移性脳腫瘍に対しては、厚南セントヒル病院と連携し、サイバーナイフという放射線手術療法を行っています。このサイバーナイフ治療により、以前は全く治療できなかった多発性の転移性脳腫瘍に対しても治療可能となり、希望が持てるようになりました。

III.治療の実際

症例1 髄膜腫 76歳 女性
直径8cmを超える巨大な腫瘍でしたが、上記手術器具を駆使して、腫瘍全部を摘出し、後遺症もなく元気に外来に来られています。
手術前、手術後の写真
      手術の前の写真           手術の後の写真
症例2 膠芽腫 51歳 男性
左の前頭葉の巨大な悪性腫瘍でしたが、先端技術と手術器具を用いて全摘し、術後は抗腫瘍剤(テモダール)の内服と放射線治療により、良好に経過しています。
手術前、手術後の写真
      手術の前の写真           手術の後の写真
症例3 下垂体腺腫 55歳 女性
目が見えにくくなったという事で、当科を受診されました。頭のほぼ中央の非常に深い所にある腫瘍ですが、内視鏡と顕微鏡、ナビゲーションを用いて頭を切らずに鼻腔から手術して約2時間で摘出出来ました。術後後遺症なく元気に外来に来られています。
手術前、手術後の写真
      手術の前の写真           手術の後の写真

[表1]

2012年手術実績
脳腫瘍 手術数
グリオーマ 17
  GBM 7
  AA/AO/AOA 5
  A/O 1
  E 0
  PA 1
  その他 3
髄膜種 13
悪性リンパ腫 3
下垂体腫瘍 6
転移性腫瘍 13
神経鞘腫 5
脈絡叢乳頭腫 1
胚細胞腫瘍 2
その他 6
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