錫の鉱石鉱物は付表のように多数あるが、錫金属として利用されているのは錫石SnO2のみである。この錫石を産する鉱山は鉱床分布図に示されているが、その数は他の金属のように多くはない。このうち高取(茨城)、鐘打(京都)、大谷(京都)、錫山(鹿児島)などでは錫石は石英脈中に産し、普通、鉄マンガン重石(錫山を除く)を伴う。また玖珂(山口)、喜和田(山口)、藤ヶ谷(山口)、尾平(大分)、木浦(大分)などの錫石は珪灰石、柘榴石、灰鉄輝石などのスカルン中に産し、主として、灰重石を随伴する。
さらに明延(兵庫)、生野(金香瀬鉱床、兵庫)や足尾(栃木)、西沢(栃木)、豊羽(北海道)の一部の鉱脈(例えば、豊羽では空知、出雲)では錫石は石英質鉱脈中に鉄マンガン重石、まれに灰重石を伴って産し、黄銅鉱、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄錫鉱、斑銅鉱、四面銅鉱、硫砒鉄鉱、自然蒼鉛、輝蒼鉛鉱、輝銀鉱、紅銀鉱、ダイアホル鉱(豊羽)、蛍石、方解石などと共存する。この種の錫鉱石は、南米ボリビアの多金属型錫鉱床(例えばSan Jose、Potosi、Animas など)や中国壯族自治区大廠(ダーチャン)鉱山などの錫鉱脈のそれによく類似し、興味深い。これらの海外の錫鉱石も比較のため展示されている。
錫石は物理、化学的に安定な鉱物で、鉱脈の露頭やその母岩が地表で風化分解しても錫石は残留するか、雨水や河川の水流によって海に運ばれ、海流や波による淘汰作用を受けて濃集され、錫の砂鉱(漂砂鉱床)となる。現在マレーシア、タイ、ミャンマー、ベトナム、インドネシアなどの東南アジア諸国で盛んに採集されている錫石の漂砂鉱床は世界的に重要な錫資源である(図、世界の錫鉱生産量および埋蔵量参照)。
かつて日本でも錫石の鉱山も稼行していたが、為替レートの変動(円高)、国際金属価格の低迷や環境問題などにより国内では鉱山の経営も難しくなり、尾平(1954年)、木浦(1957年)、見立(1969年)、生野(1973年)、明延(1987年)、豊羽(2006年)と相次いで閉山し、現在、日本には錫を採掘している鉱山は皆無である。
| 分類名 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 鉱物名(和) | 鉱物名(英) | 結晶系 | 化学組成 | 含Sn量 (重量%) |
| 元素鉱物 | ||||
| スチスタアイト | Stistaite | 三方 | SbSn | 49.4 |
| 酸化鉱物 | ||||
| 錫石 | Cassiterite | 正方 | SnO2 | 78.8 |
| 硫化鉱物 | ||||
| ヘルツェンベルグ鉱 | Herzenbergite | 単斜 | SnS | 78.7 |
| オッテマン鉱 | Ottemannite | 斜方 | Sn2S3 | 71.2 |
| ベルンド鉱 | Berndtite | 三方 | SnS2 | 64.9 |
| ティール鉱 | Teallite | 斜方 | PbSnS2 | 30.4 |
| カンフィールド鉱 | Canfieldite | 斜方 | Ag8SnS6 | 10.1 |
| 赤錫鉱(赤褐錫鉱) | Rhodostannite | 正方 | Cu2FeSn3S8 | 44.8 |
| 黄錫亜鉛鉱 | Kesterite | 正方 | Cu2ZnSnS4 | 27.0 |
| 黄錫鉱 | Stannite | 正方 | Cu2FeSnS4 | 27.6 |
| 褐錫鉱 | Stannoidite | 斜方 | Cu8Fe3Sn2S12 | 18.3 |
| モースン鉱 | Mawsonite | 正方 | Cu6Fe2SnS8 | 13.7 |
| ホカルタイト | Hocartite | 正方 | Ag2FeSnS4 | 22.9 |
| 円柱錫鉱 | Cylindrite | 三斜 | Pb3Sn4FeSb2S14 | 25.7 |
| フランケ鉱 | Franckeite | 三斜 | FePb5Sn3Sb2S14 | 16.6 |
| 珪酸塩鉱物 | ||||
| マラヤ石 | Malayaite | 単斜 | CaSnSiO5 | 44.5 |
錫は低温(232℃)で溶融し、比較的無害な金属であるために、古代より利用されてきた。青銅(Cu-Sn合金)は紀元前の青銅器時代から利用され、その歴史は古い。
日本には奈良時代に茶の伝道と共にその茶壺や茶托として錫製品が持ち込まれた。
江戸時代には、神社で用いられる瓶子(御酒徳利)、水玉、高杯(たかつき)などの神具として、また町民の酒器(特に注器)として重宝がられた。
現在は鋼板を錫めっきしたブリキとして缶詰やめっき鋼板の他、電子・電気機器の接合剤、はんだ(Sn-Pb合金、錫63%、融点183℃)、純錫はんだ、Sn-Ag-Cuはんだなどとして広く用いられている。
燐青銅(Cu-Sn-P合金)は電子部品のリードフレーム、展伸材としてバネ用(Sn 3~8%、Pa 2%)に用いられ、特に鋳物用燐青銅(Sn 5~25%、P 0.05~0.5%)は耐蝕性、耐摩耗性に優れ、ホワイトメタル(Sn 80%)やアルミ・錫合金と共に軸受に用いられる。
最近は液晶やプラズマパネルの透明電極やアモルファスシリコン・インジウム太陽電池としてインジウム錫酸化物ITOが使用されている。
必要な錫はすべてインドネシア、中国、ペルー、ボリビア、ブラジル、マレーシア、ベトナムなどから、金属の錫塊(錫99.85%以上)や錫屑として33,700トン、金属錫線、棒材料約1,130トン、錫合金約690トン、錫製品約450トンを輸入(2007年)している(JOGMEC鉱物資源マテリアルフロー2009年)。鉱石として輸入されておらず、国内では錫石からの製錬は現在行っていない。
2007年における世界の錫鉱(錫石)生産量および埋蔵量が図に示されている。錫資源は中国、東南アジア諸国、南米ペルー、ボリビア、ブラジルなど限られた国に偏在している。
錫鉱床は、初生鉱床と二次鉱床に大別され、前者にはスカルン鉱床、鉱脈鉱床など、後者には風化残留鉱床、漂砂鉱床がある。
もっとも重要な鉱床型は漂砂鉱床で、錫の全産出量の80%を占める。
錫鉱床生成に関係ある火山岩としては流紋岩、石英安山岩、安山岩などがあげられる。これらに伴う鉱床は熱水性の鉱脈、鉱染鉱床、網状鉱床など種々の産状を呈する。
錫の鉱石鉱物は錫石であるが、低温から高温にわたる銀、亜鉛、銅、タングステンなどの鉱物を伴うのでゼノサーマル型鉱床ともよばれる。この型の錫鉱床の代表例はボリビア南部に分布するが、日本、オーストラリア、シベリアでも知られている。
花崗閃緑岩~花崗岩の貫入に伴って生成される錫鉱石はスカルン鉱床あるいは熱水鉱床として産し、錫石のほか、銅、鉛、亜鉛などの硫化鉱物を伴う。イギリスのコーンウォール地域の鉱床が有名であるが、中国、ペルー、オーストラリア、カザフスタンでもこの型の鉱床を産する。
花崗岩の深所大規模貫入岩体である底盤に伴う錫の初生鉱床は、低品位の細脈群あるいは網状鉱床として産し、経済的にはあまり重要ではない。しかし、これを起源とする二次鉱床は、インドネシアのビリトン島からマレー半島、ミャンマーに至る東南アジア錫鉱床地帯をはじめ、中国、ブラジル、ロシア、アラスカ、オーストラリアなどに広く分布し、錫資源としてもっとも重要である。