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単電子デバイス

 近年,ナノデバイスについての基礎研究および応用研究が飛躍的に進んでいます. これは,過去には不可能であった微細な測定技術や加工技術が向上していることと関連しています. ナノデバイスでは高密度集積化といった直感的に予想できる恩恵がありますが,それだけではなく,系が小さくなるということでマクロ系では見られなかった様々な物性が現れます. このことの一つの理由は,系のサイズが小さくなることで量子効果が重要な役割を果たすことであり,そのような系はメソスコピック系と総称されて活発に研究が進められています. マクロ系とは異なる性質をもつ別の理由としては, 対象とする系が小さくなることで対象と環境との特徴的な時空スケールが影響を及ぼし合うことが挙げられます. ここでは階層性の反映として非線形性が重要な役割を果たし, その結果として新奇物性が現れる可能性があります.

single electron transistor

 クーロンブロッケイドと呼ばれる現象もナノデバイスで特徴的に見られる現象です. ナノスケールではトンネル接合によって単電子移動による電気回路を設計することができ,これにより図に模式的に示すような単電子トランジスタが作成されます. 図中の基板上の箱は導電体を表します. 導電体の周囲が絶縁体で満たされているとき,マクロ系では導電体の間を電荷が移動することはありませんが,十分に小さなスケールではトンネル効果により電荷の移動が可能となります. ソース,ドレイン,ゲートに囲まれている導電体をクーロン島と呼びます. トンネル容量等が適当な条件を満たすと, あるバイアス閾値電圧より小さな電圧では電流が全く流れず, バイアス閾値電圧より大きな電圧をかけると電流が流れ始めるという現象が起こります. これがクーロンブロッケイドと呼ばれるものです. 単電子のダイナミクスであるので,もちろん量子効果が重要な役割を果たします. それに加えて,別の電子が作る場(環境)が着目している電子(対象)のダイナミクスに影響を及ぼすという意味において, 環境と対象が相互に影響を及ぼし合っている階層構造を持つ系であるとも言えます.

 我々は,クーロンブロッケイドが生み出す特徴的な非線形電流電圧特性を明らかにするため,クーロンブロッケイドを示すシンプルな単電子デバイスのモデルを理論的に研究しています. 特に,量子効果については最低限の取り扱いとし,階層性がどのような非線形物性を示すのかの研究を進めています.

成果

T. Narumi, M. Suzuki, Y. Hidaka, and S. Kai, J. Phys. Soc. Jpn. 80, 114704 (2011).
T. Narumi, M. Suzuki, Y. Hidaka, T. Asai, and S. Kai, Phys. Rev. E 84, 051137 (2011).
T. Narumi et al., in preparation.