通常,液体を冷却すると融点で結晶となります. しかし,急冷や不純物の混合といった方法により結晶化を避けながら融点以下まで冷却すると, 過冷却液体状態を経てガラス転移点でガラス状態へと遷移します. ここでの「ガラス状態」という用語は,日常用いる材料としてのガラスではなく, 準安定状態の総称として用いています. 原理的には任意の物質がガラス状態となると考えられていて, 実際,合金における安定したガラス状態である金属ガラスは 高反発係数・高強度といった応用上有利な性質を持つことが知られており, これからの様々な分野での応用が期待されています.
応用的な興味だけでなく,基礎研究としてもガラス状態は今なお魅力的な問題が残されています. 過冷却液体状態からガラス状態へと至る過程の研究は長い歴史を持ちます. 様々な実験事実のうち,ガラス転移を起こす際には動力学量が急激に変化することが顕著な例として知られています. 粘性率と逆温度の関係を示した図は発見者の名前を用いてAlder plotと呼ばれているのですが, 種々の物質についてガラス転移点に向かって粘性率が劇的に増大していることが見て取れます. その一方で,系の静的構造は過冷却液体状態とガラス状態でほとんど差異が見られません.
少しの構造変化が急激な動的遅延を起こすこと(スローダイナミクス)の起源を明らかにすることを研究の目標としています. ガラス転移のメカニズムを理解するには過冷却液体状態のダイナミクスを知ることが不可欠であるとの立場から,主にモード結合理論と呼ばれる理論や分子動力学法により過冷却液体のダイナミクスを研究しています.
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