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ミツバチの造巣

honeycomb

 ミツバチの巣に見られる精緻な六角形構造は古くから科学者の関心を集めてきましたが,そのような精緻な構造をミツバチがどのようにして作るのかは明らかではありません. ミツバチがどのようにこの正確な六角形構造を作製するかについては現在も議論されていますが,大きくは2つの考え方に分かれます. 1つの考え方は,ミツバチが発する熱によってセルの縁が自発的に六角形になるというものです. この考え方に従えばミツバチが粗い構造を作るだけであとは物理法則によって精緻な構造が出来上がります. しかし,実際に蜜蝋が流れて構造が形成されるといった様子はこれまでに観察されていません. もう一方は,ミツバチが精巧な技術者であるとする考え方です. ただ,後者の考え方に従うとしても,現場監督がいるわけでも設計図があるわけでもありませんので,ミツバチは何か単純な行動原理に従って造巣しているものと考えられます.

attachment-excavation model

 私たちは,ミツバチを「自己組織化を利用する技術者」であると考えています. 自己組織化とは,構成物間の局所的な相互作用により,大域的かつ自発的に動的な秩序化が起こる過程を言います. つまり,自己組織化を介することで,単純な行動原理から秩序構造が創発しうるのです. 自己組織化の代表例として,レイリー・ベナール型対流の形成が挙げられます. レイリー・ベナール型対流の形成では,系へのエネルギーの流入と散逸がうまくつりあうことが肝心です. ミツバチの造巣では,蜜蝋の供給と除去が起こることで自己組織化が起こり得ます. 働きバチから分泌されることで系に蜜蝋が供給されますが,蜜蝋の除去が造巣過程にどう影響するかは明らかではありません. 除去の一つの可能性として考えられるのが,ミツバチによる掘削です. ここで,掘り進められるところまで掘り,一定の厚みになると掘削をやめるという仮定を加えることで,掘削が造巣過程で果たす役割を設定することができます. 以上を踏まえて,私たちは蜜蝋の付着と掘削に着目し,局所的かつ単純な行動原理により造巣過程を説明するためのエージェントベースモデルを提案し,attachment-excavation modelと名付けました. このモデルのシミュレーションによりミツバチの造巣過程を研究し,自然界で複雑性がどのように生じるのかの理解へとつなげていきたいと考えています.

成果

T. Narumi, K. Uemichi, H. Honda, and K. Osaki, short abstract of SWARM 2015 (2015).
鳴海 孝之, RIMS Kôkyûroku 2043, 142 (2017).
T. Narumi, K. Uemichi, H. Honda, and K. Osaki, PLoS ONE 13, e0205353 (2018).
鳴海 孝之, 上道 賢太, 本多 久夫, 大﨑 浩一, academist journal (2019).