山口大学大学院医学系研究科泌尿器科学講座のホームページをご覧頂き、ありがとうございます。令和4年8月1日付をもちまして、泌尿器科学講座第5代教授に就任しました白石晃司です。就任にあたり、皆様にご挨拶を申し上げるとともに、私たちが注力している主な泌尿器科診療につきましてご紹介申し上げます。
私は平成元年3月に山口県立萩高等学校を、平成7年3月に山口大学医学部を卒業した純粋な山口県人です。内藤克輔先生(第3代教授)、松山豪泰先生(第4代教授)および山口大学関連の多くの先生方のご指導のみならず、Iowa大学(アイオワ州)、Cornell大学(ニューヨーク)、Rush大学(シカゴ)やあいち小児保健医療総合センターをはじめ、山口大学以外の多くの施設で研鑽を積んでまいりました。
当教室では長年、1)泌尿器科腫瘍、2)腎移植を中心として腎不全診療および3)男性不妊や性機能障害を扱うアンドロロジー・小児泌尿器科、をサブスペシャリティーの3本柱として診療・研究を行って参りました。このたび私が国内外で習得してきた医療技術、そして私たちが山口大学で研究し、全世界に発信してきた、そして常に発信し続けている最新の医療技術を、泌尿器科医局員全員で、一人でも多くの国内外の患者さまに提供できるよう新体制で臨んでいく所存でございます。
泌尿器科では悪性腫瘍、排尿障害、小児泌尿器科、感染症、尿路結石、男性不妊症、腎不全、副腎疾患、女性泌尿器科など幅広い領域をカバーします。また診断から治療まで、つまり内科的および外科要素を一貫して行っております。私たちはこれらすべての領域について最高レベルの治療をご提供できるよう日夜努力を惜しんでいません。その中でも代表的な領域について、私たちのモットーや現状について述べさせていただきます。
腎癌、膀胱癌および前立腺癌においてロボット支援手術は、もはや最新のものではなく、山口大学泌尿器科におきましてもロボット支援前立腺全摘除術開始からちょうど10年が経過いたしました。小さな傷で癌を完全に取り除くことは当然のことですが、術後の勃起、排尿および腎機能障害や不妊、治療への満足度や経済性についての研究は日本においては非常に遅れています。高いQOLの追究が次世代の癌治療に求められてます。低侵襲手術とは手術の方法ではなく、患者さんがいかに早く合併症なく退院でき、高いQOLを維持できるか、ということと考えております。時には鏡視下手術より開腹手術のほうが患者さまにとってメリットが大きいことも多々あります。
手術以外にも、さまざまな癌に対するキナーゼ阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤、抗体薬物複合体などを中心とした、臨床治験を多く行っており、最新の治療を常に提供できる体制を構築しています。
原発性アルドステロン症、クッシング症候群および褐色細胞腫などに対する鏡視下手術を、多科診療連携のチーム医療にて積極的に行っています。
山口大学には腎臓内科が独立した診療科として存在しないため、循環器内科および小児科の先生方と協力しながら腎臓病に立ち向かっています。泌尿器科は蛋白尿の診断から、腎生検、ステロイドや免疫抑制剤を用いた腎炎の治療、そして慢性腎不全に至った場合の腎代替療法として血液透析、腹膜透析および腎移植まで慢性腎臓病に対するすべてのフェーズを担当しています。腎移植件数は年間約20〜25例と、中国四国地方においては多くの件数を行っています。患者さまに適した腎代替療法を提供し、山口県内および近県の腎臓病に立ち向かうべく、少々オーバーワーク気味ですが、腎移植を担当する医局員は常に奔走しています。
精巣内で精子を作れない非閉塞性無精子症に対し、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)を2001年に西日本で初めて施行しました。しかしmicro-TESEを行っても約70%の患者さまからは精子採取できず、不妊治療の終わりを告げなければなりません。私たちは2012年に新たな内分泌療法を開発し、2回目のmicro-TESEにおいて世界で初めて精子採取が可能であったことを報告し、非閉塞性無精子症治療におけるブレークスルーとなりました。国内外から多くの患者さまが受診され、全世界の患者さまから多くの喜びのご報告をいただいております。そのほかにも精索静脈瘤や閉塞性無精子症などにおいて山口大学発の多くの新規術式の報告を行っています。2022年4月から不妊治療に保険適用が開始されました。多くの患者さまに受診していただけるよう、私たちも万全の体制を敷いております。
LOH症候群や性機能障害の診療や研究にも力を入れています。
やさしさと繊細さが要求される小児泌尿器科手術。ロボットや腹腔鏡などを用いた癌の手術とは異次元の技術が要求されます。その結果、多くの大学病院や総合病院において、小児泌尿器科診療は敬遠され、小児症例は都市部のこども専門病院に集中する傾向があります。中国四国地方にはこども病院が存在しないことと、私たちは尿道下裂や水腎症、膀胱尿管逆流症などの手術を得意としていることで、泌尿器科外来は小さな子供たちでいっぱいです。私たちのモットーは小児期だけの治療に終始せず、特に性腺疾患などはきちんと成人まで責任をもって継続的に小児泌尿器科診療を行うことです。
松陰先生の言葉の「まことに読みて之れを行わば則ち千万世といえども得て尽くすべからず」(萩市立明倫小学校6年生2学期に唱える言葉)にあるように、私は「臨床をして発表し反省せざるは、臨床をせざるがごとし」と考えています。私たちが日頃、患者さまに行った治療をデータ化し客観的に見直し、学会発表や論文により公表し、批判を仰ぎ受容することで、自分たちの特徴や弱点、そして新たな発見があり、次の活路が見出されます。臨床医は皆physician-scientistであるべきで、臨床現場から生じた疑問点を探求する姿勢は、患者さまを診療するのであれば、一生持ち続けるべき態度であると考え、臨床および基礎実験に注力しております。
社会が泌尿器科に求めるニーズは時代とともに変化し、私たちは常に応える義務があります。さらに専門分化する泌尿器科診療、手術用ロボットの有無などにより、それぞれの泌尿器科医の役割分担にも多様化が迫られています。そのような状況において、各医師が専門性を取得し、医師間で協調かつ切磋琢磨できる能力が必要とされます。そのためには先輩後輩を問わず自由で建設的な意見が言える雰囲気を作っていきます。キツイけれども働き甲斐のある、テストステロンに満ち、誰もが常にはつらつとしている医局を目指します。