外性器の奇形などは直接命に関わることが少ない疾患も多くややもすれば放置されるケースもありますが、将来的に腎不全を来たし透析や腎移植が必要であったり、不妊症を来たすこともあります。多い報告では小児外科疾患の30-40%は尿路生殖器系の疾患とも言われています。我々は胎児期も含め小児科医および産婦人科医と協力し小児泌尿器科疾患の早期発見に努め、適切な治療を提供します。小児泌尿器科のある小児専門病院は全国でも限られており、一方子供から大人まで一貫して診療できる大学病院や総合病院の数も限られています。当科では米国および国内の専門施設にて小児泌尿器のトレーニングを受けたスタッフがお子様に応じた最善の治療方針を提供いたします。
代表的な疾患について解説します。
一旦膀胱にたまった尿が腎臓のほうへ逆流する状態を膀胱尿管逆流症(以下VUR)と言います。VURが存在すると腎盂炎を来たし発熱し、腎盂炎が治まった後も傷(腎瘢痕)が腎臓に残ります。また腎盂炎を来たさなくても将来的に腎臓に障害が及ぶことがあります。診断は検尿、膀胱造影検査および腎シンチなどを行います。なかでも膀胱造影検査は最も重要で細い管を尿道に入れ、造影剤を注入しレントゲンで腎臓のほうへ逆流があるか観察します。普通の膀胱造影でVURが認められなくても尿路感染が持続するような場合など全身麻酔下にカテーテルを膀胱に入れて造影しVURの有無をチェックします(PICシストグラム)。腎シンチは逆流があった際に腎瘢痕の有無と程度をチェックします。VURは自然治癒が期待できる病気です。少なめの抗菌薬の服用で、感染を予防しつつ、自然治癒を待つという方法と、自然治癒が見込めないあるいは感染がコントロールできないなどの理由で手術を行う場合があります。アメリカの大学との共同研究にて我々は年齢、性別、VURの程度など多くの項目を入力しVURが2年以内に消失するかしないかという人工知能を用いたプログラムを作成し非常に高い確率でVURの自然消失の可能性を予測できております。つまり自然消失しないようなお子様については腎機能の悪化を防ぐ目的で早期の手術を勧めております。恥骨の上を横に切ります。手術時間は2-3時間で、術後のカテーテル(管)類が抜けるまで下腹部に痛みが生じることがあります。尿管ステントを留置し2週ー1ヶ月後に全身麻酔下にそのステントを内視鏡で抜去することもあります。近い将来内視鏡的にVURを治療できる薬剤が日本でも使用できるようになりますが成績は開放手術に劣ります。
開放手術の平均的な入院期間は1週間で、成功率(逆流消失や合併症なし)は95%です。
男児の外尿道口が本来の亀頭の先端に開口しておらず、亀頭の下部や陰茎の途中、あるいは陰茎の根元などに存在している状態です。オシッコのときに尿が飛び散ったり、程度が強い場合は立小便ができないなどの問題があります。また、陰茎の屈曲を認めることが多く、将来の性生活の問題が生じる可能性があります。陰茎の屈曲を矯正し、亀頭に開口する新しい尿道を作成する手術を行います。外尿道口の位置、屈曲の程度、ペニスの大きさなどにより手術方法を決定します。一期的または二期的行います。外尿道口の位置や陰茎周囲の使えそうな皮膚の状態に応じて5−6種類の術式を使い分けますが手術時間は約3-5時間です。程度の軽い症例に対しては米国で盛んに行われ合併症の少ないTIP法を積極的に行いますが、ペニスがやや短くなるという欠点があります。合併症(術式にもよりますが全体で15-20%程度)としてはろう孔(尿漏れ)、尿道挟窄(排尿障害)などがあります。これらの合併症に対しては、約6ヶ月から1年後に再手術を行います。尿道下裂の手術は泌尿器科の中でも難しい手術の1つです。何度も手術をしてペニスの使える皮膚がなくなってしまったら口腔粘膜を用いて尿道を一期的または二期的に作ることも行っております。その場合2-3 cm四方の粘膜をほっぺたの裏か下唇付近から採取しますが、口腔粘膜は再生が早いため食事も早期にできます。口の中の粘膜が瘢痕状になって違和感を感じることがありますが生活に支障があることは非常に稀です。
精巣が陰嚢底まで降りない状態です。生後6カ月を過ぎると自然に下降する期待は持てませんので遅くとも2歳までには手術(精巣固定術)を行います。精巣が陰嚢内にないことはコスメティックな問題のみならず、両側であれば高率で不妊症になります。また発ガン(精巣腫瘍)のリスクも高くなります。そけい部を約3cm、陰のうを約1 cm切ります、傷跡が目立つことはまれであり、あまり問題になりません。1時間程度の手術です。精巣がおなかの中にあって体表から触れない場合はMRIという画像診断を行った後、腹腔鏡を行います。おなかに5 mmの穴を3箇所あけて手術を行います。精巣の存在が確認されたらそのまま陰嚢内に下ろすか、つっぱりの原因になる精巣の動脈を遮断して6ヶ月から1年後に2回目の手術で陰嚢内に下ろす手術を行うことがあります。精巣がなければ遺残組織を摘除することがあります。
腎臓で作られたオシッコが膀胱にいたるまでに存在する通過障害(大部分は腎盂と尿管の移行部の狭窄)により腎臓に圧がかかり腎臓や腎盂と呼ばれる部分が腫れている状態です。尿管と膀胱のつなぎめ付近で狭窄がある場合(下図左)や腎盂と尿管のつなぎめで狭窄がある場合(下図右)などがあります。大部分のケースは先天性でお母さんの胎内にいる間も含め超音波(エコー)検査で見つかることが多いです。腹痛や嘔吐などの症状を伴うこともありますが無症状のことも多いです。しかし放置により腎機能の悪化を認めますので程度の強い場合は手術を行います。通過障害の程度を調べるため体に安全なラジオアイソトープを用いた利尿レノグラムやDMSAシンチを行います。30−40分じっとしていなければならないので乳幼児の場合は鎮静薬を用います。また膀胱尿管逆流との鑑別のため膀胱造影検査を行うこともあります。エコーでの水腎症のグレーど、利尿レノグラム、DMSAシンチ、年齢および症状を総合的に判断し腎臓の機能がすでにないと判断される場合以外は一般的には腎盂形成術を行います。狭窄の原因となる部位を切除し、腎盂尿管移行部の内腔を広くつなぎ直します。脇腹か背中に5-6cm程度の切開をおき、手術を行います。術後しばらくは吻合部の浮腫のために尿の通過が悪く、通りがよくなるまで腎臓から尿を直接体外へ出すための管を留置しすることがあります。通常1-2週間で管が不要となり、退院できます。尿管ステントのみを留置し、4−5日程度で退院し、2週ー1ヶ月後に全身麻酔下にそのステントを内視鏡で抜去することもあります。約90%の症例で閉塞は解除されますが、すでに腎機能の悪化を防ぎ得ないケースも存在します。
精巣の静脈がうっ血し腫れる状態で、小児の場合は陰嚢や下腹部の痛みで受診されます。ソケイ部またはその上を3 cm切って顕微鏡を使って精巣の動脈とリンパ管は残して静脈を結紮する手術を行います。精巣の萎縮や陰嚢水腫などの合併症が起こりえますが我々はそのような合併症は経験しておりません。問題は無症状でたまたま小児科などで精索静脈瘤が指摘された場合です。精索静脈瘤は男性不妊症の原因で最多で小児期に成人なみの頻度になると言われています。成人で精索静脈瘤の手術をしても精液所見の改善を認めないケースがあり小児精索静脈瘤は精子形成に長期間にわたり悪影響を与えている可能性があり、将来的な男性不妊の予防のために我々は積極的に手術を行っていますが、その適応は経過中に脳下垂体から出る性腺刺激ホルモンの1つであるFSHが上昇してきたり、精索静脈瘤がある側(大多数は左ですが)の精巣が反対側に比べ小さくなってきた場合です。ソケイ部付近に3 cm程度の切開を行い、顕微鏡を用いて動脈をリンパ管を残し静脈のみ結びます。治療方針について世界的にも十分なコンセンサスが得られていない疾患ですのでご家族および本人と十分に話し合って治療方針を決定いたします。
基本的には手術は行わずにステロイド軟こうを用いた家庭での翻転指導を行います。風呂上りなどに痛くない程度に毎日包皮をむくような力を加えてもらいます。時間はかかりますが2年以内に大部分の男児の包皮がむけるようになります。しかし小児期のみならず大人であっても包茎は生理的(病的ではない)ということはご理解していただきます。しばしば亀頭包皮炎を起こしたりオシッコをするときに先端が膨らんだりするようなケースまたはペニスは皮膚に埋まっているような埋没陰茎や翼状陰茎については手術を行うことがあります。
オネショが原因で神経や泌尿器の病気が見つかることがありますので、診察をし検尿、レントゲンや超音波(エコー)検査は必ず行います。俗に言うオネショと判断した場合には程度や家庭環境にもよりますが小学校低学年くらいまでであれば治療は急ぎません。まず行動療法を行います。具体的には夜尿アラーム(濡れを検出すると鳴るブザー)を購入していただいて、漏れた瞬間に起きるようにします。ご家族の協力も必要です。3−6ヶ月続けて約60%の症例に効果があります。もし無効であれば抗うつ薬や抗利尿ホルモンであるデスモプレシンスプレーを使用します。
尿路感染症、巨大尿管症(閉塞性、非閉塞性)、尿管瘤、異所開口尿管、尿道狭窄、尿道弁(後部、前部)、腎不全、尿路結石、二分脊椎の尿路管理、神経因性膀胱、排尿異常陰嚢水腫(鼠径ヘルニア)、総排泄腔遺残症、性分化異常症(真性・男性仮性・女性仮性)、陰核肥大などを治療します。
2013年 | 2014年 | 2015年 | |
精巣固定術 | 35 | 24 | 30 |
精巣固定術(腹腔鏡下) | 3 | 5 | 6 |
膀胱尿管逆流防止術 | 12 | 12 | 12 |
腎盂形成術(開放) | 3 | 2 | 2 |
腎盂形成術(鏡視下) | 3 | 4 | 3 |
尿道下裂手術(初回例) | 6 | 10 | 9 |
精索静脈結紮術(小児) | 13 | 14 | 16 |
交通性陰嚢水腫根治術 | 5 | 5 | 5 |
内尿道切開術 | 1 | 2 | 1 |
埋没陰茎手術 | 1 | 0 | 2 |