まずこのサイトを開いてくれた学生のみなさん、初期研修医および泌尿器科専門医研修を考えているすべての方々に感謝いたします。泌尿器科とはどんな科なのか?山口大学ではどんな研修をおこなうのか?こんな疑問のお応えすべくQ & A方式で作成しました気軽に読んでみてください。
(文責:松山豪泰)
・「泌」:内分泌臓器を扱う。
泌尿器科で扱う臓器には多くの内分泌機能をもつ臓器があります。
・「尿」:尿にかかわるすべての臓器を扱う。
・「器」:生殖にかかわる男性生殖器を扱う(こじつけですが)。
その1) 診断、治療、その後の経過観察までトータルにサポート
専門化・細分化が進んだ現代医療は効率的である反面、患者さんや家族とのかかわりが希薄な傾向にあり、ここに医療受けて側の不満や医療訴訟の種が潜んでいます。診断の時点からトータルにサポートすることにより、患者さんに対する責任感や親密さが強くなります。患者さんやご家族と親しく接し、わかりやすい言葉で説明すること、何かミスがあったときにもすぐに対応し、医療訴訟の回避につながるとおもいます。
その2) 内科系の要素と外科系の要素の両方をもっている
たとえば慢性腎不全に対する治療は血液透析、腹膜透析などの血液浄化療法(内科的要素)と腎移植(外科的要素)を扱っています。また浸潤性(進行性)膀胱癌の治療はGC療法などの抗癌剤治療と膀胱全摘が行われますが、前者は内科的要素、後者は外科的要素となります。さらにTURBT(外科的要素)と抗がん剤併用放射線治療(内科的要素)を組み合わせることにより膀胱温存という第3の治療法により患者さんのQOL(生活の質)を向上させるというオプションも選択できるでしょう。図は泌尿器科のサブスペシャリティを示したものです。内科系の領域と外科系の領域がバランスよく、多彩であることがわかります。
その3) QOL disease(生活の質を落とす疾患)を扱うことが多い
QOL diseaseとは生命を脅かす疾患ではないが、その障害は日常生活に重大な支障を来す疾患を指し、たとえば尿失禁、男性不妊症 、前立腺肥大症、骨盤臓器脱(膀胱瘤など)などがこれに当たります。骨盤臓器脱は会陰部の下垂感を主訴とする中高年女性に多い疾患で、このような状態は続くことはたまらなくいやだという患者さんが圧倒的ですが、経膣的手術(TVM手術)や腹腔鏡手術(LSC)により、そのQOLは飛躍的に上昇します。山口県内では最も多くの症例を経験しています。
その4) 対象患者人口の急速な増加にマッチした科である
今後超高齢化社会を迎える我が国において、高齢者の患者さんが圧倒的に多い泌尿器科の需要はますます高くなることが予想されます。たとえば前立腺がんは本邦でも急増しており、2020年には男性臓器別罹患率は第2位になると予想され、その治療、管理が重要になってきます。今後外科的治療はロボット補助下前立腺全摘術(RARP)が主流となることは確実です。当科では通常のRARPのほかに術直後より尿失禁量が格段にすくないRS-RARP(レチウス腔温存ロボット補助下前立腺全摘術)を行っておますが、本手術はまだ全国で5施設しか施行されておらず、特徴ある手術といえます。
A3 平成29年より日本専門医機構専門医制度が始まりましたが、「山口県泌尿器科専門研修プログラム」は、山口大学医学部附属病院泌尿器科を基幹施設とし、15の連携施設(すべて当教室の関連病院)で構成されています。募集専攻医数は年間5名ですが、グループ全体の主な泌尿器科年間手術件数は5201件であり、専攻医1名当たり約1000件(地方大学を基幹としたプログラムの場合、約500件が基準)と大都市並みの豊富な手術数を経験することができます。また本プログラムは山口県の修学資金貸与者に対するコースも併設しており、とくに4年の(僻地)指定病院勤務の義務がある緊急医師確保対策枠の医師に配慮した点が評価されて、現在101ある泌尿器科研修プログラムのうち4つのモデルプログラムに選定されました。詳細は「山口県泌尿器科専門研修プログラムについて」をご参照ください。
1)大学でしかできない専門医教育の実践
専門医教育は場当たり的な症例の蓄積のみでは、今後30年以上臨床医を継続するための基礎体力がつきません。そこには周到に準備された体系的な卒後教育が必要です。以下に当科で実践している具体例を挙げます。
(a)「山口大学医学部泌尿器科専門医研修プログラム
当科では専門医研修開始の段階からこのプログラムに基づき、自己学習の目標と手術症例の自己評価および指導医評価をプログラムノートに自己記入していきます。このノートはログブック代わりに関連病院ローテーション時にも持参し、関連病院の先生にも症例の指導医評価をしてもらい、専門医受験の際に役立てています。専門医制度評価機構のサイトビジット(施設監査)の際、高い評価をいただきました。
(b) ダヴィンチトレーニング
当大学附属病院スキルアップセンターには医療支援ロボット「ダヴィンチ」のシミュレーターが設置されており、予約すれば自由に使用することができます。また実機を用いたトレーニングプログラムが用意され、スキル評価を行います。
(c) 腹腔鏡技術認定医養成のためのきめ細やかな指導
腹腔鏡技術認定は若手泌尿器科医が最も取得したいタイトルです。本制度は腹腔鏡手術(腎または副腎摘除術)の未編集ビデオを技術認定委員会に送り、審査を受けるもので、平成29年の全体合格率は53%でした。泌尿器科ではビデオカンファレンス(毎週木曜日)での若手医師の手術に対するフィードバックや山口泌尿器内視鏡研究会夏期講習会で、技術認定審査の先生による審査のポイントレクチャーや実際のビデオに対する評価をしてもらっています。その成果あって、これまでの合格率は85%以上と好成績を上げています。
2)個々の医師のキャリアデザインに基づいた卒後研修の実践
同じ臨床医でもその後の進路は様々です。当教室では、早い段階から個人の将来希望を聞き、それに応じた専門医研修をおこなっています。専門医研修開始段階で特に希望がなければ、できるだけ大学院進学(専門医研修4年目)をお勧めしています。
3)世界に情報発信できる専門医集団をめざす
いくら優れた技術や知識があってもそれを世界に発信しなければ医学の貢献にはつながりません。当科では以下を通して国際性のある泌尿器科医の養成を進めています。
(a) 海外留学
当科では積極的に海外留学を推奨し、希望者は期間中も収入見込みのある状態での留学体制をとっています。携海外施設はThe Prostate Center(カナダ)Karolinska Institute(スウェーデン)、Radboud University(オランダ)などがあります。海外留学経験を積んで国際感覚を身に着けた医師を目指しましょう。
(b) 大学院生の国際学会招待
当科では大学院生を国際学会に招待(医局が経費を負担)し、その感動を肌で感じてもらうようにしています。
A5 専門分野は泌尿器悪性腫瘍 、腎疾患治療および腎代替療法(腎移植、CAPD、血液透析)、腹腔鏡およびロボット補助下の低侵襲手術、アンドロロジー、小児泌尿器外科、女性泌尿器科(性器脱、女性尿失禁など)を中心に取り組んでいます。詳細は個々のサイトをご参照ください。診断においては5-aminolevulinic acid(5-ALA)を用いた蛍光膀胱鏡があり、他大学と共同で医師主導治験を行い、5-ALAが保険収載されました。また長年基礎研究を続けている膀胱癌遺伝子コピー数変異を臨床応用したウロビジョンは、当科を含めた国内10施設で企業主導型臨床治験が行われ、日本で再発性膀胱癌の遺伝子診断薬として保険承認されました。治療においては、浸潤性膀胱癌に対する抗がん剤放射線併用膀胱温存療法は100例以上の症例があり、良好なQOLと高い治癒率が得られます。男性不妊症では非閉塞性無精子症に対するホルモン療法などは世界的に注目されている先進的な治療法です。詳細は各サイトをご参照ください。
最後に
医局はさまざまな症例を経験し、新しい技術を習得できる場であり、自分の可能性を発見できる場でもあります。医局での毎日の研修は読書に例えると「精読」であり、若い間に医局を通して得られる経験は泌尿器の専門家として大切な基盤となり、そこにこそ医局の存在価値があると思います。このような素晴らしい可能性を秘めた医局に、少しでも多くの先生が集まってくれることを願っています。
当科での皆さんの専門医コース研修をお待ちしています。
連絡先:
(医局長)磯山 直仁
(電話):0836-22-2275