前立腺は直腸の前、膀胱のすぐ下で、尿道の周りにある栗の実ほどの大きさがある臓器です。精液の成分である前立腺液を分泌しています。
夜間の頻尿や日中の頻尿の場合も前立腺肥大症の疑いがあります。前立腺肥大症には以下のような症状が現れます。
@ 尿が出にくい、勢いがない、時間がかかる、残尿感がある。血尿。
A 回数が増える(1日あたり8回以上)、夜間に何度もトイレに行く。
B がまんできない、尿を漏らしてしまう。
前立腺肥大症と同じような症状が前立腺がんにも見られますので、誤解されやすいのですが、全く異なった病気です。
前立腺肥大症は内腺と呼ばれる内側の尿道に近い部分が肥大化する病気です。一方、前立腺がんは内腺より外側の外腺と呼ばれる部分の細胞にがんが発生するものです。ただし、日本人男性にとってこの前立腺がんは近年、増加の一途を辿っていますので、中高年の方は注意が必要です。
@問診: 前立腺肥大症の症状を調べるため、IPSSを含む問診を行います。
「国際前立腺症状スコア(IPSS)」では、夜間頻尿を含む7つの排尿状態を診断(チェック)することによって、客観的に前立腺肥大症の程度を判定することができます。IPSSによる判定では7点未満を正常もしくは軽症、8点以上を中等症、20点以上を重症としています。
A検尿: 血尿の有無、膿尿の有無(膀胱炎合併の有無)を検査します。
B腹部触診、直腸内指診: 下腹部膨満の有無や実際の前立腺の大きさや硬さのチェックを行います。
C尿流量測定: 機械の便器に排尿して頂き、尿の勢いを検査します。
D残尿量測定: 膀胱内に残った尿の量を超音波検査で検査します。
E画像診断: 超音波検査で主に行いますが、必要によりX線、CTなどで前立腺の大きさの把握を行います。
F膀胱機能検査: 膀胱機能障害の合併を疑う場合には必要により追加します。
上記の検査を行い、総合的に前立腺肥大症の重症度を診断し、医師と相談の上、治療方針を決定します。日常の生活に支障がない場合などは、経過観察となる場合もあります。
@前立腺肥大症の症状が軽い初期段階の治療法としては、主に薬物療法が選択されます。症状が重い場合は、薬による治療だけでは不十分ですが、排尿困難などの症状緩和に効果的な薬も増えてきました。
A外科的手術: HoLEP”(ホーレップ)
薬物治療を行っても、排尿困難が改善しない場合や残尿が減らない場合などには当院では経尿道的前立腺レーザー核出術(HoLEP)を行っています。
“HoLEP”という手術方法は、内視鏡を尿道から前立腺に通し、レーザーファイバーと呼ばれる機器を前立腺の内側(内腺)と外側(外腺)の境目に挿入して行います。このレーザーファイバーでホルミウムヤグレーザーという種類のレーザー光を照射し、肥大した内腺(腺腫)を外腺から切り離(核出)します。腺腫を核出し、尿道を広げた後、別の機器で膀胱内へ移動した腺腫を細切・吸引しながら摘出します。この“HoLEP”による治療法は、従来の内視鏡手術(TURP)に比べて出血量を少なくすることが可能です。また、入院期間や完治までの期間も短く、低侵襲な治療法です。
HoLEPは、レーザー光(ホルミウム・ヤグレーザー)を用いるため、患者さんの体に負担が少ない前立腺肥大症治療を可能にします。
前立腺の組織は、尿道の左右(左葉・右葉)、および人体下側(中葉)からそれぞれ内側に向かって肥大していきます。HoLEPはホルミウム・ヤグレーザーを照射し内腺と外腺との境目に入り、内腺のみを核出します。核出された前立腺組織は一度、膀胱内に移動させます。
肥大した前立腺組織の核出が終了すると、モーセレーターという機器を用いて、膀胱内に移動させた前立腺組織の核出片を細切し、吸引しながら体外に排出します。モーセレーターは先端が細い管になっており、尿道から膀胱まで挿入し、先端の小さい穴から核出片を吸引します。
核出した前立腺組織をすべて体外に排出すると、モーセレーターを取り除き、かわって尿路の確保や保護、止血のために尿道カテーテルという管を挿入します。尿道カテーテルは術後数日で抜去されるのが一般的です。
内視鏡を使用する手術ですので、メスで腹部を切る必要がなく、体への負担がより少ない、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)向上に貢献できる治療法です。
HoLEPに使用されるホルミウム・ヤグレーザーは、水への吸収率が高いため、組織到達深度はわずか0.4mmです。
また、ホルミウム・ヤグレーザーは、レーザーファイバーの先端を組織から5.0mm離すと組織に影響を与えません。つまり尿道や膀胱内が水で満たされていれば、ほかの組織に影響を及ぼすことなく照射できます。2.0mm以下の距離では、組織の切除が可能となり、同時に組織を焼くことで止血が行われます。そのため、出血が少なく、切除痕の回復も早く、結果的に入院期間も短縮されるといったメリットも生まれます。
このHoLEPは、前立腺組織のうち、血管が少ない外腺と内腺の境目を切除しますので、出血や術後の痛みが少ない手術です。そのため、鎮痛薬を使用する頻度が少なくなっています。
HoLEPでは、肥大した前立腺組織を核出するため、残存組織が少なく、再発の可能性はほとんどありません。
HoLEPの合併症として術後の尿失禁があります。術後2〜3か月で改善してきますが、術式の改良によりその発生率もかなり減少してきています。