膀胱がん(膀胱腫瘍)は50歳以上の人に好発します。男性に多く、女性の2〜3倍といわれています。また喫煙者は非喫煙者の2〜4倍の割合で膀胱がんになりやすいことも示されています。?主な症状は目でみてわかる痛みのない血尿 (無症候性肉眼的血尿)や膀胱炎様の症状(頻尿・排尿時痛)です。目でみてわかる血尿(無症候性肉眼的血尿)があった場合は,必ず泌尿器科専門医の診察を受けてください。なかなか治らない膀胱炎の場合も膀胱がんの可能性があります。膀胱がん(膀胱腫瘍)は大きく3つのタイプに分けられます。
膀胱腫瘍の約70〜80%はこのタイプです。多くは血尿で見つかります。悪性度の低い腫瘍で、膀胱のうちがわ(内腔)に向かってカリフラワー様(乳頭状)腫瘍ができますが、根は浅く経尿道的な内視鏡手術で治療可能です。しかし半数以上の人で再発するため、治療後も厳重な経過観察が必要です。再発の危険性は、腫瘍の数、腫瘍の大きさ、初発か再発か、腫瘍の根の深さ (Ta、 T1)、腫瘍のタチの悪さ (核異形度)などによって変わってきます。再発の危険の高い場合は、BCGや抗がん剤による膀胱内注入療法により、再発の予防を行います。再発しても多くの場合は内視鏡手術で治療可能ですが、再発腫瘍の10%程度は、筋層に浸潤したり、転移をおこすようながんに進展します。また、当院では、5-アミノレブリン酸 (5-ALA)を用いた光力学診断を併用した内視鏡手術(PDD-TUR)を日常診療として実施しています (下記参照)。5年生存率は95%と良好です。
乳頭状腫瘍と切除鏡
因子 | 再発スコアー | 進展スコアー |
腫瘍の数 | ||
単発 | 0 | 0 |
2-7個 | 3 | 3 |
8個以上 | 6 | 3 |
腫瘍径の大きさ | ||
3cm未満 | 0 | 0 |
3cm以上 | 3 | 3 |
再発までの期間 | ||
初発 | 0 | 0 |
1年以下 | 2 | 2 |
1年より長い | 4 | 2 |
T分類 | ||
Ta | 0 | 0 |
T1 | 1 | 4 |
上皮内癌の有無 | ||
なし | 0 | 0 |
あり | 1 | 6 |
Grade(核異型度) | ||
G1 | 0 | 0 |
G2 | 1 | 0 |
G3 | 2 | 5 |
合計 | 0-17 | 0-23 |
再発スコアー | 1年での再発の可能性 | 5年での再発の可能性 | リスク分類 |
0 |
15% |
31% |
低 |
1-4 |
24% |
46% |
中間 |
5-9 |
38% |
62% |
|
10-17 |
61% |
78% |
高 |
進展スコアー | 1年での進展の可能性 | 5年での進展の可能性 | リスク分類 |
0 |
0.20% |
0.80% |
低 |
2-6 |
1% |
6% |
中間 |
7-13 |
5% |
17% |
高 |
14-23 |
17% |
45% |
悪性度が高く、根が膀胱の壁の深いところ(筋肉の層以上)にまで食い込んでいるがんで、転移をすることもあります。5年生存率は50〜65%程度です。治療は、内視鏡手術のみでは不十分な場合がほとんどで、膀胱を全部摘出する開腹手術(膀胱全摘除術)と膀胱の代わりになる尿路を再建する尿路変向術が必要となります。尿路変更術には、 回腸導管造設術、新膀胱形成術、尿管皮膚瘻術があります。また、膀胱を残す試みとして、抗がん剤による全身化学療法、放射線療法などが行われています。当科では内視鏡手術・化学療法・放射線療法を組み合わせて膀胱の温存を試みる治療を積極的にすすめ、膀胱全摘除術と比較しても遜色のない治療成績が得られています。
隆起した形態をとらず、膀胱内腔表面をはうように進展するタイプのがんです。このタイプのがんは頻尿や排尿時痛などの膀胱炎様症状をきたすことが多いです。ほかの 臓器の上皮内がんと違い、膀胱上皮内がんは悪性度が高く浸潤性がんに進行する可能性が高いため、早期の確実な治療が必要です。多くの場合、まず膀胱の中に薬物 (BCG)を注入する治療を行うことになります。
転移のある膀胱がん(進行性膀胱がん)は非常に予後不良で、5年生存率は25%以下です。治療は抗がん剤を用いた全身化学療法が中心となりますが、病気の状態・全身状態および患者さんの希望などを考慮し、また患者さんの生活の質(QOL)も重視し、慎重に治療法を決定します。最近では副作用の少ない新しい抗がん剤を用いた治療にも積極的に取り組んでいます。
5−アミノレブリン酸 (5−ALA)は、細胞内でヘムに変換されています。その中間代謝産物にprotoporypherin IX (PPIX)があります。PPIXは、青紫色の光をあてると赤色の光を発色する特徴(蛍光)を持っています。一方、がん細胞では正常の細胞に比べて、5-ALAを過剰に投与した際に、PPIXが細胞内に10倍以上蓄積されることが知られています。細胞内に蓄積したPPIXを、青紫色の光をあてて検出することで、がん細胞(組織)検出率の向上を図っています。このような診断法を光力学診断といいます。膀胱癌も、このような仕組みを利用して蛍光膀胱鏡で見つけることができます。利点として、1.小さながんを見落とさず発見できる点 2.平坦型ながんを検出できる点 3.手術時の有効切除範囲の決定が正確・容易になる点、などがあります。当院でも、蛍光膀胱鏡を併用した経尿道的手術(PDD-TUR)を日常保険診療として行っております。また現在当院では、高リスク非筋層浸潤性膀胱癌に対するPDD-TURの有効性を証明する、多施設共同研究(BRIGHT study、前向き観察研究)に参加しています。この臨床研究により、高リスク非筋層浸潤性膀胱癌におけるPDD-TURの有用性が実証できれば、その再発に病悩する患者さんの負担軽減に大いに寄与することが期待されます。