1. 精巣腫瘍とは
2. 症状
3. 診断
4. 治療
5. 予後
6. 症例提示
7. 最後に
日本では比較的稀な疾患で、発生率は10万人に約1人程度といわれています。一般にがんは、高齢者に多いものですが、精巣腫瘍は乳幼児期と20〜40歳代の青壮年期に好発し、進行が早いことが特徴です。早期から転移する場合が多く、転移巣による症状から発見されることもあります。ただし、転移を有する場合でも化学療法、外科療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療により、比較的高い治療率が得られることも大きな特徴です。
精巣は、精子と男性ホルモンを作っている臓器で陰嚢内にあります。精巣腫瘍のほとんど(約95%)は、この精子を作り出す細胞(胚細胞)ががん化したものです。精巣腫瘍の組織には精上皮腫(セミノーマ)と呼ばれるタイプとそれ以外(非セミノーマ)に大別されます。
早期では、痛みを伴うことはほとんどなく、陰嚢内容の腫大(無痛性腫大)が主な症状です。痛みがないため、陰嚢内容が腫大して硬結を触れていても、恥ずかしさから受診せず、進行してしまう症例を多く認めます。早期に転移を来たすため、転移による症状で受診する場合もあります。転移による症状には、頚部や腹部のリンパ節による腫瘤を触れる・腰痛・腫瘍の産生するホルモンの影響で乳首の痛みや腫れなどもおこります。さらには肺転移による呼吸困難まで様々な症状があります。
陰嚢の異常に気づいたら早めに泌尿器科を受診することをお勧めします。
精巣腫瘍の診断は、陰嚢の触診、超音波検査、腫瘍マーカー(AFP、HCG、LDH)の血液検査で行います。精巣腫瘍と鑑別を有する疾患として、陰嚢水腫、精巣上体炎、精巣捻転などがあります。特に精巣上体炎の場合、精巣腫瘍と鑑別が困難な症例もあり注意が必要です。
まずがんの発生した精巣を完全に切除する高位精巣摘除術を行います。 摘出した組織を、病理組織学的に診断を確定します。さらに画像診断(CT、MRI、FDG-PETなど)、腫瘍マーカーなどの検査を行い、どこまで病気が進行しているか(日本泌尿器科学会病期分類)を決定します。組織型と臨床病期により治療方針を決定します。
転移の見られないセミノーマでは厳重な経過観察、後腹膜リンパ節に対する予防放射線、あるいは予防抗がん剤治療を行います。
当科では従来のシスプラチンを含む化学療法に抵抗性を示す症例に対して、新規抗がん剤であるパクリタキセル、イホマイド、シスプラチンを用いた救済化学療法を行い、治療成績の向上を目指しています。
精巣腫瘍の化学療法は長く、時に1年以上となる症例もありますが、転移を有していても十分な治療行えば、比較的多くの症例の完治が期待できる点がほかの癌と異なる点です。