不妊症に関する研究や治療は顕微受精をはじめとする新規テクノロジーの開発により日々変化し続けていますが、我々は40年以上に亘り一貫して泌尿器科的な立場から男性不妊症の病態の理解、診断および治療について研究してきました。その間に山口大学式(打ち抜き式)オーキドメーター、陰嚢深部温度測定やカラードプラーによる精索静脈瘤の定量化など臨床的に有用な方法を開発してまいりました。またマイクロサージェリー(精路再建、精索静脈瘤手術、micro-TESE)の成績向上についても早期より行ってまいりました。以下に述べました分野以外にもmicro-TESE、勃起障害、射精障害、癌患者さんや透析患者さんのQOL、男性更年期障害および小児泌尿器科に関する臨床研究を行っておりアンドロロジーおよび小児泌尿器科分野の発展に貢献できるよう日々努力しています。最近では男性不妊症患者さんには生活習慣病の罹患率が一般成人よりも高く、生活習慣病の治療が精液所見の改善にも有効であることがわかりました[1]。男性不妊外来を受診することで高血圧や糖尿病などの生活習慣病の早期発見および早期治療も可能であるというメリットも示されています。
1. Shiraishi K et al. Fertil Steril 110, 1006-1011, 2018.
非閉塞性無精子症(non-obstructive azoospermia, 以下NOA)は精巣内での精子形成が非常に弱いために無精子症(精液中に精子が存在しない状態)を来している状態です。顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection testicular sperm extraction, 以下micro-TESE)により精子採取が可能であり顕微授精にて挙児を得ることができるようになりました。Micro-TESEでの精子採取率は30~40%ですので多くのNOA患者さんにおいてはこの時点で不妊治療の終了を宣告されます。我々はそのような患者さんに対してヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)とリコンビナントヒト濾胞刺激ホルモン(FSH)を用いた内分泌療法(以下、サルベージ内分泌療法)を行なった後に、2回目のmicro-TESEを行なうことで初回のmicro-TESEにて精子採取不可能であったNOA患者さんの20%に精子採取が可能であったことを世界で初めて報告しました[1]。我々の報告したサルベージ内分泌療法は世界中で追試され、学会等で5~80%の症例に有効であったと報告されています。我々は国内多施設共同研究にて10%の症例に有効であることを報告しました[2]。さらに初回のmicro-TESE時の精巣組織所見がSertoli cell onlyや精祖細胞などでのearly maturation arrestの症例には効果が期待できず、逆に減数分裂の終了したlate maturation arrestの症例には効果が高いことが判明しました[3, 4]。
サルベージ内分泌療法は保険適用外ですので、すべての症例に行なうのではなく上記のように初回TESE時の病理組織所見に基づいて厳格に適応を決定しています。
サルベージ内分泌療法については以下の2施設にてご相談を受け付けております。
山口大学泌尿器科:0836-22-2517
宇部興産中央病院泌尿器科:0836-51-7399
1. Shiraishi K et al. Hum Reprod 27, 331-339, 2012.
2. Shiraishi K et al. Int J Urol 23, 496-500, 2016.
3. Shiraishi K. Reprod Med Biol 14, 65-72, 2015.
4. Shiraishi K et al. Endocrine J 64, 123-131, 2017.
慢性陰嚢痛は精管結紮術後やソケイヘルニア術後など原因がはっきりしている場合は稀であり、大部分が原因不明です。陰嚢を中心に下腹部、ソケイ部、大腿部、会陰部などに持続的または間欠的な痛みを生じ、患者さんを悩ませ、仕事や学校に行けないなど生活の質を非常に落とすケースも稀ではありません。鎮痛剤やソケイ部の神経ブロックで対応されることが多いですが、最終的に精巣摘除を行われているケースもあるようです。しかし精巣はこれから挙児を得ようとする人は当然、高齢者においてもテストステロン供給という大切な機能を担っておりますので安易な摘除は慎まなければなりません。顕微鏡下精索静脈瘤徐神経術(microsurgical denervation of the spermatic cord : MDSC)は欧米の限られた施設で行なわれていましたが、我々は本邦で初めて行い、精索の神経分布の詳細な解剖学的所見[1]に基づきhigh inguinalアプローチといった新規の術式を開発し2019年1月現在までに60例程度に施行いたしました。有効率は80%程度であり、陰嚢外の痛みや抑うつ傾向のある患者さんには効果が薄いことが判明しました[2]。MDSCは鎮痛剤等が無効な慢性陰嚢痛に対して施行すべき治療であると考えています。
顕微鏡下精索静脈瘤徐神経術については以下の施設にてご相談を受け付けております。
山口大学泌尿器科:0836-22-2517
1. Oka S et al. J Urol 195, 1841-1847, 2016.
2. Annual meeting of American Urological Association 2018
ラットを用いて閉塞性無精子症(vasectomy)[1, 2]および精索捻転症モデル[3]を作成しgerm cellのアポトーシスについて検討したところ両者において高率にアポトーシスが誘導され、これらの疾患による造精機能障害にアポトーシスの関与が考えられました。そのアポトーシスの実行過程にカスパーゼ[3]はもちろんp53[1]やMAPK family分子[2]の関与が示されました。興味深いことにアポトーシスの実行分子であるカスパーゼを阻害することで確かにアポトーシスは抑制されましたが長期的な造精機能においてはアポトーシスの抑制はまったく効果がなく、カルパイン阻害によるネクローシスの抑制のみ造精機能を回復させました[3]。またアポトーシスは主にprimary spermatocyteで生じますが(TUNEL染色右図A: control, B: vasectomy)、アポトーシスが活発に生じている精巣ほどspermatogoniaにおけるproliferating cell nuclear antigen (PCNA)の発現が高く、アポトーシスにより能動的に細胞を除き活発に新しい細胞を作っていることが示唆されました[2]。山口大学第2生化学教室(中井彰教授)とのheat-shock factor1 (HFS-1)ノックアウトマウスを用いた共同研究にて本来細胞保護的に働くHSF-1が停留精巣によるheatストレス下においてはHSF-1ノックアウトで逆にアポトーシスが抑制されるという逆説的な結果が得られました[4]。つまり精巣という臓器の特性上、何らかのストレスによりgerm cellはアポトーシスにより容易に死に、新しい細胞をつくることによりquality controlを行い、さまざまなストレスに対抗していることがわかりました。しかし精索静脈瘤や閉塞性無精子症のヒト精巣にはラットに比べ細胞回転がおそいためかTUNEL法やDNAラダーの検出といった一般的な方法ではアポトーシスは検出されず[5]、アポトーシスの早期マーカーであるPARPのp85 fragmentやcaspase-3のp17 fragmentの検出にてアポトーシスの存在が間接的に精索静脈瘤精巣において証明されました[6]。アポトーシスに陥ったgerm cellは速やかにセルトリ細胞により貪食され処理ます。FSHやインヒビンといったセルトリ細胞の機能とアポトーシスの関連について研究しています。
また体細胞であるライディッヒ細胞のアポトーシスについての研究も行っており、LH/hCG刺激に伴いERKやAktなどの生存シグナルが活性化されてanti-apoptoticに働いていることがわかりました[7]。
1. Shiraishi K et al. JUrol 166, 1565-1571, 2001.
2. Shiraishi K et al. JUrol 168, 1273-1278, 2002.
3. Shiraishi K et al. Biol Reprod 63, 1538-1548, 2000.
4. Izu H et al. Biol Reprod. 70, 18-24, 2004.
5. Shiraishi K et al. Contraception 65, 245-249, 2002.
6. Shiraishi K et al. World J Urol 28, 359-364, 2010.
7. Tai P et al. Endocrinology 150, 399-403, 2010.
酸化ストレスが男性不妊症の様々な病態に関与していることがわかりました。ラット精索捻転症の場合、虚血―再還流により炎症性細胞の浸潤が精巣間質に起こり大量のnitric oxide (NO)を放出することにより細胞傷害が進行します[1]。ラットvasectomyの場合酸化ストレスが間質の線維化を促進し、その過程はアンギオテンシンU依存性であることがわかりました[2]。ヒト精巣の酸化ストレスについての研究は主に精液を用いた解析のみで精巣内についての報告はありませんでした。我々は精巣生検サンプルをSDS-PAGEにて泳動し酸化ストレスマーカーである抗4-hydroxy-2-nonenal modified protein (4-HNE)抗体を用いたウェスタンブロッティングを行うことで少ない精巣組織より酸化ストレスの評価を行っています。精索静脈瘤のある精巣では4-HNE modified proteinの発現を認め同時に抗酸化作用を有するheme oxygenase-1 (HO-1)[3]やvascular endothelial growth factor (VEGF)[4]の発現亢進をライディッヒ細胞に認めました。また精巣内の4-HNE modified proteinの発現が高いほどvaricocelectomyの治療効果が良好でした[5]。また精索静脈瘤を有する精巣では精巣内NOの濃度が上昇しておりましたが造精機能の直接は関係せず静脈瘤のグレードは径に関係し、NOは静脈瘤を悪化させることにより間接的に造精機能障害に関与していると考えられました[6]。4-HNE-modified proteinの増加は精索静脈瘤のみならず閉塞性無精子症[7]や特発性症例[7]および血液透析[8]においても認められました。精索静脈瘤を有しながらも妊孕性のある多くの男性にも認められますが、妊孕性のある男性においては精索静脈瘤があっても精巣内の酸化ストレスは亢進していないことがわかりました[9]。
酸化ストレスのコントロールは造精機能障害の治療に重要と考え、特発性症例に対する抗酸化剤の投与を行い精液所見の改善において良好な成績が得られています。またライディッヒ細胞を用いたin vitroでの酸化ストレス傷害について分子レベルでの研究を行っています。
酸化ストレスと造精機能機能、精索静脈瘤、特にheat stressによる生じる酸化ストレスについては最近出版された酸化ストレス関連の書籍やレビューにまとめました[10, 11]。
1. Shiraishi K et al. Biol Reprod 65, 514-521, 2001.
2. Shiraishi K et al. J Urol 170, 2104-2108, 2003.
3. Shiraishi K et al. Hum Reprod 20, 2608-2613, 2005.
4. Shiraishi K et al. Fertil Steril 90, 1313-1316, 2008.
5. Shiraishi K et al. Fertil Steril 86, 233-235, 2006.
6. Shiraishi K et al. BJU Int 99, 1086-1090, 2007.
7. Shiraishi K et al. J Urol 178, 1012-1017, 2007.
8. Shiraishi K et al. J Urol 180, 644-650, 2008.
9. Shiraishi K et al. Fertil Steril 91, 1388-1391, 2009.
10. Shiraishi K. In: Studies on Men’s Health and Fertility, edited by Agarwal A, Aitken J, Alvarez J. pp149-178, Springer 2012.
11. Shiraishi K et al. International Journal of Urology 19, 538-550, 2012.
精索静脈瘤は治療の意義さえ疑問視される疾患ですが、実際には大部分の症例で精液所見は確実に改善し驚くほどに改善する症例も存在することは治療の経験があるDr.であれば十分ご承知の事実です。いかにvaricocelectomyの適応を選ぶかということが大切になりますが、我々は静脈径[1]や年齢が若く陰嚢深部温が上昇している症例[2]が治療効果が良いことを報告してまいりました。しかし逆の報告もあり依然として適応に関しては議論の的です。我々は酸化ストレスの強い精巣においては術後の精液所見の改善が高く、精巣内酸化ストレスと陰嚢深部温の上昇は有意に相関することから、非侵襲的な検査法として陰嚢深部温測定を重視しています。またmicro-TESEの精巣内精子の予測に関しても単にFSH値のみならず他にいくつかの因子が複雑に絡み合い非常に予測困難です。イリノイ大学シカゴ校泌尿器科との共同研究で人工知能(artificial neural network: ANN)を用いたvaricocelectomyの治療効果予測およびmicro-TESEによる精子存在予測に関するプログラムを作成中ですが難航しています。何らかのbreakthroughとなる有力な因子(例えばvaricocelectomyであれば陰嚢温度上昇であったり、micro-TESEであれば術前の精巣生検像や吸引細胞診など)があればかなり正確に予測できるようになると考えられます。無精子症の精索静脈瘤症例において次世代シーケンサーを用いたヒト精巣でのトランスクリプトーム解析にてvaricocelectomy後に射出精子の出現が期待できる症例は細胞増殖に関わる遺伝子群の発現が高い症例であることが判明し、proliferating cell nuclear antigen (PCNA)を用いた免疫染色にて術後の射出精子の出現予測が可能であることを報告いたしました[3]。
精索静脈瘤は病気ではないがゆえにその治療である手術は確実性と低侵襲性を兼ね備えていなければなりません。従来microsurgical suninguinalアプローチが理想の術式とされていましたが、我々の考案したmicrosurgical high inguinalアプローチとの比較を行ったところ、microsurgical high inguinalアプローチにおいて手術時間の短縮や術後の痛みの軽減が図れ、我々はこの術式を精索静脈瘤手術に適用しています[4]。
1. Shiraishi K et al. Andrologia 33, 351-355, 2001.
2. Shiraishi K et al. Arch Androl 49, 475-478, 2003.
3. Shiraishi K et al.J Urol 197, 485-490, 2017
4. Shiraishi K et al. J Androl 33, 1387-1393, 2012.
マウスライディッヒ細胞cell lineであるMA-10細胞を用いたLH/hCG刺激に伴う細胞内シグナル伝達系について研究を行っております[1]。hCG刺激によりGタンパク共役型レセプター(GPCR)であるLHレセプター(LHR)が活性化されセカンドメッセンジャーであるcAMPやIP3が産生されます。cAMP-PKA経路により生存シグナルの代表であるERKが活性化されますが、同時にチロシンキナーゼ型レセプター(TRK)であるEGFレセプター(EGFR)がリン酸化されることを見出し、hCGによるLHRの刺激に伴うEGFRの活性化といったtransactivationが存在することがわかりました[2]。その過程においてSrc family kinase (SFK)の1つであるFynが重要な役割を果たしております。そのEGFRの活性化が本当にjuxtacrine/paracrine的に生じているかどうかを証明するため、我々はLeydig-Leydig co-cultureという実験系を確立いたしました。LHRを有するMA-10細胞にmyc-ERKを、LHRを持たないI-10ライディッヒ細胞にEGFRとGFP-ERKを発現させ同じdish上でco-cultureし、hCG刺激に伴うGFP-ERKの活性化を調べるというもので、hCG刺激によりI-10細胞のGFP-ERKが活性化されました[3]。またsiRNAにてMA-10細胞のEGFRをノックダウンしてhCG刺激によるERKの活性化が抑制されたことも含めライディッヒ細胞においてLHRからEGFRへのtransactivationが存在することが証明されました[3]。現在それに関与するEGF-like growth factorを同定中です。特記すべきことはLH/hCG刺激はライディッヒ細胞よりテストステロン産生を促すということ以外にEGF-like growth factorなどの何らかの増殖因子も分泌させるということです。EGF-like growth factorは非常に分化および増殖作用が強いため、精子形成に大いに関係していると考えられます。オスラットの両側精巣に精索捻転を起こし不妊症モデルを作ることができます。そのようなラットにGnRH, hCGおよびFSHを投与することで造精機能の改善に成功しました(in preparation)。ゴナドトロピン刺激によるライディッヒ細胞やセルトリ細胞からの様々なparacrine/autocrine factorsが分泌された結果であると考えております。
以上の研究成果を考慮しmicro-TESEにて精子が得られなかった無精子症の患者様に対してゴナドトロピンを用いたホルモン療法を行いICSIに使える精子の出現を認めた症例も経験しています。精子を認めた部位のEGF-like growth factorの発現が良好であることを確認しており[4]、サルベージ内分泌療法の開発の着想に至りました。
サルベージ内分泌療法により精巣内テストステロンの上昇や精祖細胞のDNA合成能の亢進[6]やセルトリ細胞でのアンドロゲンレセプターの発現上昇[7]などが生じることが分かりました。またLeydig細胞はheat shock factor-1 (HFS-1)を介したsteroidogenic acute regulatory protein (StAR)の発現を制御している[8]など、細胞内シグナル伝達系についても徐々に解明が進んでいます。
一方、LHRのリガンドであるLH betaサブユニットの遺伝子異常につても解析しています。現在までにLH betaの明らかなinactivating mutationは3箇所報告され、それらのmutationは明らかに性腺機能低下および男性不妊と関連しますが非常に稀なmutationです。Exon 2のTrp8Arg/Ile15Asn変異はその頻度に人種間で差(0-53.5%)を認めpolymorphism (variant-LH)として報告されています。その変異によりLH betaのAsn13が糖化されます。このmutationは女性においては不妊、多嚢胞性卵巣症候群および乳癌などとの関連が示唆されています。我々も男性不妊患者と一般人との間でTrp8Arg/Ile15Asnの頻度を調べてみましたが有意差は認められませんでした。しかしそのmutationを認めた症例に以前はLH単独欠損症と考えられていたfertile eunuchを呈した症例も存在し、Trp8Arg/Ile15Asnは何らかのLHの機能異常に関与していると考えております[6]。LH betaの遺伝子解析は相同性が高くしかも複数存在するhCG遺伝子の存在により非常にプライマーやPCRの設定が難しいですが、我々の考案した条件はブラジルのグループによる新規のinactivating mutationの発見に貢献しました(Lofrano-Porto A. et al. N Engl J Med 357, 897-904, 2007.)。variant-LH (Ala-3Thr)をリガンドとして用いた場合、野生型に比べcAMPやIP3などのセカンドメッセンジャーの増加に影響があることも報告されており、ライディッヒ細胞での細胞内シグナル伝達系への影響を検討しています。
1. 白石晃司. 日本生殖内分泌学会雑誌 13, 9-15, 2008.
2. Shiraishi K et al. Endocrinology 147, 3419-3427, 2006.
3. Shiraishi K et al. Exp Cell Res 314, 25-37, 2008.
4. Shiraishi K. et al. J Androl 33, 66-73, 2012.
5. Shiraishi K et al. Hum Reprod 27, 331-339, 2012.
6. Shinjo E et al. Andrology 1, 929-935, 2013.
7. Kato Y et al. Andrology 2, 734-740, 2014.
8. Oka S et al. Endocrinology 158, 2648-2658, 2017.
9. Shiraishi K et al. Int J Urol 2016
10. Shiraishi K et al. Endocrine J 50, 733-737, 2003.
アイオワ大学泌尿器科との共同研究で、人工知能(artificial neural network: ANN)を用いたVURの自然消失予測を行っています。11個のパラメーターを入力することによりROC値=0.86と良好なsensitivityおよびspecificityを持ったプログラムを開発し(Knudson MJ et al. J Urol 178: 1824-1827, 2007)、異なった患者背景にて検証してもsensitivity: 82.5%, specificity: 78.6%と高い予測能をもっていることが確認できました(in preparation)。腎シンチの情報を加えることで正診率は更に向上しました(Nepple KG et al. J Urol 180: 1648-1652, 2008)。DefluxRの臨床応用も含めVURの治療方針について変革期を迎えると考えられますが、引き続きANNを用いた治療方針の的確な決定について検討しています。また腎瘢痕の存在はブレークスルーインフェクションの危険因子となりうることが証明されました[2]。
1. Shiraishi K et al. J Urol 182, 687-691, 2009.
2. Shiraishi K et al. J Urol 183, 1527-1532, 2010.
小児期に見つかった精索静脈瘤についてはすぐに治療すべきかどうかについてはcontroversialですが、グレード2または3の静脈瘤についてはvaricocelectomyを勧める意見が多いです。グレード1のような小さな静脈瘤についての報告は少ないですが、我々は小さな静脈瘤に対しても積極的にvaricocelectomyを行ってまいりました。その結果、グレード1であっても手術群のほうが経過観察群にくらべ5年後の精巣容積が明らかに大きいことが示されました.。また小児精索静脈瘤は大人と異なり陰嚢深部温が激しく上昇する症例とそうでない症例が極端に分かれ陰嚢深部温測定が手術適応の決定に役立つことを報告しました[1]。我々の考案あしたmicrosrugical high inguinal approachは小児例においても安全かつ有効な術式であり[2]、今後多くの先生方に施行されることを期待しています。
1. Shiraishi K et al. Urology 82, 205-209, 2013.
2. Shiraishi K et al. Int J Urol 23, 338-342, 2016.
男性不妊症診療の現場においては多くの症例で病態はすでに完成され不可的であることが多く、おそらく小児期に何かが悪影響を及ぼしているであろうと考えております。男性生殖内分泌の中心であるライディッヒ細胞の特性を理解するためにラットライディッヒ細胞のprimary cultureを行いますが、小児期の細胞にはもともとLHレセプターの発現が低いうえ、分離および培養によりその発現レベルは更に低くなります。我々はアデノウィルスベクターを用い初めてラットライディッヒ細胞にレセプターを発現させることに成功しました[1]。小児期のライディッヒ細胞にレセプターを発現させることでLH/hCG刺激に伴う細胞内シグナル伝達系の解析やホルモン分泌能の解析が可能となり、小児期のライディッヒ細胞においても細胞の生存に必要な基本的なmachinaryは備わっているもののホルモン分泌能は成熟したライディッヒ細胞より低いことがわかりました[2]。Male hypogonadtropin hypogonadism (MHH)に対する精子出現を目的とするホルモン療法は治療成績が非常に良いですが、前治療としてより若い時期にテストステロンではなくゴナドトロピンの投与を受けているケースの方が最終的な精巣容積が大きいことが判明し(in preparation)、MHHに対する小児期から成人にいたるまでの最善の治療法について検討しています。
性腺機能低下症に対するホルモン療法を小児期から成人にかけて行いますが、ゴールをどこに設定するか、つまり第2次性徴までか精子形成までか、によって治療方針が異なります。我々は基本的には将来的な造精機能の獲得を考慮しゴナドトロピンを使用することが多いですが、患者本人の性への興味、脳の性分化などの客観的な評価が必要と考えております。成人男性に使用する勃起障害や男性更年期の質問票をmodifyした形で用いることで精神的および性機能的な評価が可能となりました(in preparation)。
1. Shiraishi K et al. Endocrinology 148 (8), 3214-3225, 2007.
2. 白石晃司ら. 日本小児泌尿器科学会雑誌 18, 50-55, 2009.
陰茎の線維性硬結により陰茎の湾曲をきたすペロニー病は稀な疾患として認識されていますが、米国では全成人男性の約9%に存在するといわれ、性機能障害のメジャーな原因の1つとされています。わが国でのペロニー病の疫学に関する報告はなく、健診患者さんの非常に多い宇部興産中央病院泌尿器科(島袋智之先生)との共同研究にて、正常男性においてはその頻度は0.6%、透析患者さんにおいては9%の頻度でペロニー病が存在することがわかりました[1]。しかしペイロニー病自体が非常に稀な疾患であるため更に症例数を増やして検討しています。遺伝的バックグラウンドなどの人種差の解析をRush大学(シカゴ)との共同研究で進めています。
持続性勃起症も稀な発症であるものの、迅速かつ的確な処置が必要な疾患ですが、その治療に難渋することも珍しくはありません。特に遷延した虚血性持続勃起症に対しましては有効な治療法はありません。我々はそのような症例に対し、distal shunt plus cavernous tunneling with blant cavernosotomyという方法を開発し持続勃起に対する処置のみならず勃起機能の温存という観点からも有用であることを報告しました[2]。
1. Shiraishi K et al. J Sex Med 9, 2716-2723, 2012.
2. Shiraishi K et al. J Sex Med 10, 599-602, 2013.
がん経験者や二分脊椎、脳性麻痺などの障害者においてる“生殖”や“性機能”について論じられることはほとんどありません。しかし、がん治療の進歩や種々の神経障害に伴う臓器機能の管理、整形外科、脳外科的管理の進歩に伴い日常生活については不自由なく暮らしていらっしゃる患者さんも多く、結婚、挙児および性生活についての不安をかかえていらっしゃいます。今後は生活の質(QOL)の改善が求められています。障害者医療のレベルや社会福祉のシステムは我が国は欧米に比較し、大きく遅れています。しかしそれらの患者さんの生殖医療については欧米においてもやっと関心が持たれ始められた時期です。我々は抗がん剤投与後[1]や二分脊椎症患者さんの無精子症に対する精巣内精子採取術の成績や脊髄損傷や脳性麻痺患者さんの不妊および性機能障害治療を長年行ってきました。これらの患者さんにおける病態は複雑かつ個人差が大きく、個別化治療は多いに求められる領域であり引き続き積極的な治療を行っていきたいと考えております。
1. Shiraishi K et al. Urology 83, 100-106, 2014.