山口大学大学院医学系研究科 泌尿器科学分野 松山豪泰
山口大学で医学部付属病院は、2012年7月に手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入し、当科でも9月7日よりロボット支援前立腺全摘術を開始しました。10月半ばの時点で5例の手術が行われ、合併症もなく患者さんは非常に喜ばれ、退院されています。手術にかかる時間も第1例目:8時間でしたが、5例目は4時間を切り、順調に習熟が進んでいる状況です(図1)。
昨年、全世界で約20万件の「ダヴィンチ」補助下手術(以下ロボット手術)がおこなわわれ、世界の手術の趨勢は低侵襲高度医療に向かっているといえます。特に米国における前立腺がんに対する前立腺全摘術は80%はロボット手術となっています。ロボット支援前立腺全摘術は、平成24年4月に本邦において保険診療が認められ、これを受けてすでに約60台の「ダヴィンチ」が導入されています。泌尿器科領域ではまだ保険の認可はされていませんが、腎部分切除術や膀胱全摘術が適応とされ、今後10年以内にロボットなしには泌尿器科手術は語れないという時代になることが予想されます。
それでは「ダヴィンチ」とはどのようなロボットなのでしょうか。「ダヴィンチ」は米国Intuitive社により開発された手術支援ロボットの名称で、本来軍事(米国在住の医師が前線の負傷兵士の手術を遠隔操作でおこなう)目的で開発されたため、手術のためのアームが取り付けられるPatient cart、術者が操作を行うSurgeon console、医療スタッフのためのモニター画面が設置されたVision cartと呼ばれる3つの独立したパーツで構成されています(図2)。実際の手術は腹腔鏡手術と同様におなかにポートと呼ばれる5-12mm程度の小さな穴を6つ開け(図3)、おへその上に作ったポートから3D(立体)画像が得られるカメラを入れて、術者の細かな手の動きを忠実に再現するロボットアームと助手の鉗子を別のポートより入れて、手術をおこないます。
では「ダヴィンチ」のどこが従来の腹腔鏡手術より優れているのでしょうか。
術者に必要な視野として立体視、俯瞰視、拡大視などがあるといわれています。腹腔鏡手術では立体視ができません。拡大視野も限られています。「ダヴィンチ」では拡大した立体視野が瞬時に得られることは腹腔鏡にない有利な点の一つです。もう一つの特徴として両手(主に3本の指)の動きをロボットアームが忠実に再現しつつ、手振れ防止機能がついていることにより繊細でスムーズな術者の指の動きを術野に再現することができる点でです。腹腔鏡の鉗子の動きは直線上の二次元の動きですが、ロボットアームは多関節をもつことにより、三次元の動きが可能となっています(図4)。
では欠点はないのでしょうか。「ダヴィンチ」は骨盤内など比較的狭い範囲の細かい手術に適しているが、術野が広い手術には適さないといわれています。またロボットアームからもたらされる触覚がないため、どのくらいの強さで組織を押したり、糸をひっぱたりしているのかがわかりません。そのため術野から得られる情報は視覚がすべてということになります。現在、触覚を感知できる新しいロボットが開発中であり、今後ますます進化した医療支援ロボットの出現が期待されます。
ロボット支援手術を行うには、術者および助手は決められたトレーニングコースを受け、ライセンス(免許)を取得しなければいけません。また山口大学附属病院では独自のガイドラインに基づき、技術評価委員会のスキル評価をパスする必要があります。今後山口県でも複数台の医療支援ロボットの導入が予想されますが、ライセンス取得には2名で最低100万円の費用がかかります。泌尿器科では、これからのロボット支援手術を希望する若手泌尿器科医師を積極的に養成する予定です。
山口大学医学部泌尿器科は、ロボット支援手術を通して山口県における患者さんにやさ優しくより高度な最先端医療を支えていきたいとおもいます。